ハルギタの待降節
二部の舞台劇
シュトー・アンドラーシュ作
飯田緑訳
目 次
ハルギタの待降節（初演版）・・・・・・・・・１
ある劇の源泉となった地方について・・・・・・・５８
作者略歴・・・・・・・・・・・・・・・・・・・６４
シュトー・アンドラーシュの劇の
プローバからプレミエまで・・・・・・・６５
劇評・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・７１
訳者あとがき・・・・・・・・・・・・・・・・・７９
〈付録〉ハルギタの待降節(最終版)・・・・・ ８１
二部の舞台劇
登場人物
アールヴァイ・レーカ
ゼテラキ・ガーボル
ボーディ・ヴェンツェル
ボーディの娘マーリア
ゼテラキ・ダーニエル
アールヴァイ・レーカの娘、小レーカ
詠唱し、踊る娘たち
セーケイ4の男たち、女たち、楽士たち
（アールヴァイ・レーカと小レーカは一人二役で演じなくてはならない）
歌
氷の鳥、氷の鳥、紅い頭の青い鳥！
翼があったのに、氷の鳥、歩くものになぜ加わったのだ？
氷の鳥、氷の鳥、相手を探す小鳥よ！
翼があったのに、氷の鳥、歩くものになぜ加わったのだ？
氷の鳥、氷の鳥、雪を連れてくる青い鳥よ！
翼があったのに、氷の鳥、歩くものになぜ加わったのだ？
氷の鳥、氷の鳥、氷を溶かす小鳥よ！
翼があったのに、氷の鳥、歩くものになぜ加わったのだ？
氷の鳥、氷の鳥、相手をなくした小鳥よ！
翼があったのに､氷の鳥、歩くものになぜ加わったのだ？
氷の鳥、氷の鳥！
氷の鳥、氷の鳥・・・
＜第一部＞
（ハルギタのボーディ・ヴェンツェルの丸木小屋。「小崩れ」と呼ばれる険しい渓谷の上。家は〜通常の山岳地方の家屋と違って〜窓だらけ、外は雪だらけ。雪に覆われた壁、塔、雪の波、風でギザギザになったてっぺん。雪枕、雪布団のついた、枝の突き出たモミの大木、軒には数メートルもある、かすかな青色の氷柱のパイプオルガン。風が吹くとこのパイプオルガンが鳴るのだが、ときには金切り声、風のヒューヒューいう音、ごうごういう音もだす。家の端から始まって、右側に目のくらむ岩石の亀裂。これが同様に雪で覆われた「大崩れ」。家の前面はボーディ・ヴェンツェルの仕事場と日中の居場所。壁には大まかなところ、金細工の彩色されたランプ６個。さらにシカのエダ角、剥製のえぞやまどり、やましぎ、さらに猟銃１丁。開いた炉、テーブル、ひじかけのついた長いす、クッション付きのいす、飾っていないクリスマス・ツリー。背景にはボーディの寝室。下手から登場するものは、「小崩れ」のつかまりながらよじ登るしか出来ない小道を通って家の入り口まで来る。幕が上がると「奇蹟を見たもの」ダーニエルとボーディ・ヴェンツェルが「小崩れ」の険しい小道を家の入り口に向かってくる。その間立ち止まったり、それどころかときどき膝をついて、跡を探している）
ボーディ そいつばかりは信用出来ないな、ダーニエル。たとえお前さんの名が「奇蹟を見たもの」だとしても、言わせてもらうが、お前さんはひどく誇張してるよ。
ダーニエル われらが父なる主にかけて。
ボーディ しっ！
ダーニエル 死から甦ったわしの言うことが信じられんのなら、アンタルにきいてみろ。
ボーディ 聖アンタル5にか？
ボーディ しっ！今度こそおだぶつになりたいのか？この「大崩れ」の真下にいてわめくとは。
ダーニエル 以前なら大丈夫だった。銃を撃ちまくることだけはだめだったが。
ボーディ 今ではもう両方ともだめなんだ。
ダーニエル じゃあ、何ならやってもかまわんのかね？
ボーディ しちゃあならんこと以外なら、何でもさ。（遠くで雪崩の音）聞こえたか？
ダーニエル （十字を切って）崩壊と誘惑から、神よ、われらを救いたまえ。
ボーディ わめきたくなる誘惑から、とはお前さん言わなかったな。
ダーニエル わしらからどんな権利をお取上げになったか、主はご存知だ。
ボーディ じゃあ、それに馴れるんだな。（ダーニエルが咳をしそうになるのを見て）帽子にだ。帽子に！
ダーニエル （帽子を口にあてて咳をする、その間遠くから狼の遠吠えが聞こえる）じゃ、あいつらはかまわんのか？
ボーディ 狼どもだよ。やつらには帽子がないんだ。で、その後はどうだったね？
ダーニエル えーと、娘っこが、あのレーカが鳥に変わったときは、シュティーグ・アンタルの肩だか帽子だかに舞い上がれただろうに、そうする代わりにあの若者と並んで道を歩き続けた。やつに雪の中から話かけておった。あいつは山頂のモーゼのように、下を向いて声をかけておったが、わしは離れておったから、やつらの話まではわからなかったよ。
ボーディ どんな鳥だった？
ダーニエル 新妻鳥より大きくはなかった。あそこにいるあれ位だ、ほれ！
ボーディ もっと小さな声で、頼むから！どの位大きかったかときいたんじゃない、どんな風だったのか、ときいたんだ。
ダーニエル 可愛いし、えらくよく動いたね。後で、狩猟士官の鉄を打った長靴の足跡の隣の跡も眺めてみたよ。その足跡は、首に架ける小さな、白い十字架のようだったよ。もう片方はシューシューなのに、こっちはチョン・チョン・チョンだ。
ボーディ チョン・チョン・シューか。それじゃ、色を言ってみろ。
ダーニエル 目がチカチカする白の中でもわかった。青だ、空色さ、ほんのちょっぴり緑の混じった。頭はというと横から見えたんだが、朱、青、白だった。
ボーディ くちばしは？
ダーニエル 大きかった。歌うためじゃなく、むしろついばむために作られたやつだ。
ボーディ 何をついばむのに？
ダーニエル 気が向けば何でも、さ。
ボーディ わかったよ。そして頭も新妻鳥のより大きかった、と。とさかに縞模様のスカーフだって被っていたかもしれんな。
ダーニエル 当たった。
ボーディ 氷の鳥だった。レーカから氷の鳥になった。お前さんの言うことは誇張ばかりじゃないか。
ダーニエル それならどうだというんだ？
ボーディ やつらはどうして並んで歩いて行けたんだ？
ダーニエル アンタルの方はしょっちゅうゆっくり歩こうとしていたし、レーカそれとも氷の鳥は、その横でせっせと歩調を早めていた。そうやって話をしていた。そのうちわしに聞き取れたのは、鳥が弱々しく「私をどこに連れて行くの？アンタル、私を連れて行くの」と叫んだのだけだった。
ボーディ どこに連れて行けたというのかね？
ダーニエル そいつは、前もって予測出来るようなことじゃない。
ボーディ お前さんが言ってることが、信じられないことだからさ。どうやってその鳥がシュティーグ・アンタルの隣を歩いて行ったというところだ。鳥ってやつは、とりわけ氷の鳥は、大雪の中を歩くのは好かんものさ。どっちみちあのシュティーグ・アンタルの肩か帽子に舞い上がらなくてはならなかったろうよ。レーカは、翼があったら飛ぶな、というたちじゃない。
ダーニエル 飛ばなかった。誓うよ、あいつは歩いて行ったんだ。それにここにその証拠がある。この足跡が見えるか？
ボーディ 確かにな。
ダーニエル シュー、シュー！これがシュティーグ・アンタルのだ。そしてほれ、その隣に、首に架ける小さな白い十字架が見えるだろう？チョン・チョン・チョン、氷の鳥のだ。
ボーディ 他のやつのでなければ、お前さんの言うとおりだ。
ダーニエル どこに通じているか、見てみよう？ヴェンツェル！あんたの家に向かっているぞ。
ボーディ わしの家の方にか！そいつばかりは考えなかったな。どれ見てみよう（四つんばいになって家の入り口に向かう足跡に沿って、這う）
ダーニエル ここで終わりだ。ここで何かが起きたんだ。ほれ、鳥の足跡が途切れている。そうとも、ここにつかみ合いの跡がある。シュティーグ・アンタルがすべった、鳥は２、３歩ピョコピョコ跳ねて、それで終わりだ。
ボーディ 飛び上がったかもしれんな。
ダーニエル 捕まえられたんだ。
ボーディ ほんとに捕まえられたのか。
ダーニエル 捕まえられて、家に連れ込まれたのさ。
ボーディ どこの家にだ？
ダーニエル どこの家に。わしらは村から二時間かかるところにいる、わしらの間には神様と「大崩れ」しかない、わしらのまわりは荒れ地と狼の吠え声だけだ、そしてこいつは「どこの家へ」とききおる。きっと神の家だったろうな。
まっとうな人間なら、許嫁をあそこに連れて行く、それにレーカはシュティー
グ・アンタルの指輪をはめた許嫁だったんだぞ。だがやつはそこへじゃなく、ヴェンツェル！、それどころかここに、あんたの家へ連れ込んだのさ！出来るもんなら、女どものような女々しいふるまいはやめて、男らしくしろよ。
ボーディ わしが。女々しいだと。あの小さな斧一丁で七頭の熊を殺したわしが女々しいだと。もう一度言ってみろ。
ダーニエル しっ！こいつ、破滅するぞ。何もあんたの勇敢さを疑ったんじゃないさ。女どものようには、と言ったんだよ。あんたは思い出したいことだけしか思い出さんのだから。それ以外は忘れてしまうんだ。
ボーディ わしが何を忘れたんだ？
ダーニエル 氷の鳥が、ここに、あんたの家に連れ込まれたことさ。
ボーディ そいつは忘れておらんよ。ただ連れ込まれたんじゃない、連れて来たんだ。詳しく言えば、シュティーグ・アンタルがドアを叩いたとき、わしはちょうどオートミールをかき混ぜておった。やつはレーカを腕に抱えていた。だがそれ以上のことは訊くな。その後で起きたことは、あの二人の問題だ。
ダーニエル （声高に）あの二人のだと？
ボーディ しっ！あの二人のだ。他に誰がいるというんだ？
ダーニエル よく知ってるだろう、ヴェンツェル！せがれのだ、せがれガーボルのだ。
ボーディ あの子はもう、このゆりかごから降りたろう。
ダーニエル 知っとるだろう、あいつらは幼なじみの恋人どうしなんだ。
ボーディ 童の恋なんて、ジプシーの子供か、五月の冬みたいなものさ、やって来ては行ってしまう。
ダーニエル これはそうじゃないんだ。知ってるだろう、ヴェンツェル。せがれのガーボルめ、すでに一度あいつのため、氷の鳥のため、死にかけたことがある。
ボーディ 知ってるよ。
ダーニエル あのときは十五才だった。最後の瞬間に、わしが首吊りの縄を切ったんだ。神よ、あのときわしがどんなにあの哀れな子をぶちのめしたことか。そのことを知ってるか？
ボーディ どうして知るものか。だがお前さんは何で今、わしを尋問するんだね？
ダーニエル この氷の鳥の足跡のためさ。本当の状況を知るために。なんせせがれときたら、見ざる聞かざるなんだから。あいつは今野性の孔雀みたいだ。トゥルル、トゥルルと鳴くばっかりで、翼をふりおる。だがヴェンツェル、シュティーグ・アンタルが氷の鳥をここに連れ込んだことを、もしガーボルが知ったら、どうなる？そいつがわかるのは、すでに一度死んだことのあるわしだけさ。
ボーディ 幸運にもお前さんは二日目に蘇った。
ダーニエル 三日目だよ。
ボーディ また誇張する。二日目だ。
ダーニエル 違うよ。わしの方が正確に知ってるよ。三日目になってやっと、木喰い虫がもぞもぞしだしたんだ。
ボーディ どこでもぞもぞしだしたんだね？
ダーニエル そりゃ棺の中でさ。あんちくしょうどもめ。あんな板をよこしやがった。
ボーディ 真実にもどろう。お前さんが、死んでいた日数を増やすのが好きなのは知ってるよ。だが、お前さんは二日目にはもう蘇ったんだ。
ダーニエル 三日目だ、だがあんたと議論はせんよ。誰でも自分のことは知っている。あんたは海へ逃げた娘のことを、髪に霜のおりる孤独のことを、わしは三日目に感じた木喰い虫の動めきを、そして今、新たにレーカの手をとった一人息子のことを、やつらを見てわしらの血は凍ったよ、なんせ「大崩れ」のへりを歩いておったんだから。だが言っておくが、わしは恐るべき静けさの中で、棺の板の中で木喰い虫がもぞもぞいうのを、三日目になってやっと感じたんだ。
ボーディ おとぎ話だ。わしの方がよく覚えているよ。一月七日木曜に、お前さんが大木に打たれたという知らせが来た。わしは八日金曜に、村まで塩を買いに出かけた。ぴったり昼の十二時頃だった。するとあのときお前さんは起きだしてあたりを見回し、「なんで泣かんのだ？」と参列者たちにきいた。もう皆、涙も枯れ尽くしていたからさ。
ダーニエル もしちょうどあのときあんたが塩を買っていたというなら、それでいいさ。だがわしはあんたに訊きたいんだが、なんであんたはあのシュティーグ・アンタルと氷の鳥に宿を貸したんだね？
ボーディ わしの務めだからさ。ここに入れてくれと頼む者を、わしは狼の間に締め出すわけにはいかないさ。そうじゃないか？
ダーニエル そうだろうな。そうしてまずいね。そんな必要はなかったろうに。あんたの娘マーリアのことを考えてみることだって出来ただろうに。あの子だって、そういう風にして海に連れて行かれたじゃないか？もしせがれがこのことを知ったら、どうなる？
ボーディ 足跡を掃いて消しておくとしよう。
ダーニエル 掃き消せない跡だってあるさ、ヴェンツェル。（叫んで）あんたはせがれにまずいことをしてくれたよ、ヴェンツェル。（雪崩、ボーディ、ダーニエルの口をふさぎ、彼はそれ以降はささやき声で続ける）そのことではあんたは、せがれにまずいことをしてくれたよ。神よ、今となってはもう誰に元にもどせるでしょう？誰に？まだ何のまずいことも起きなかったかのように、ほれ、この二つの足跡は隣あって進んでる。一つはシュティーグ・アンタルので、もう一つの、首に架ける白い十字架のようなチョン・チョン・チョンは、わしのせがれの氷の鳥のだ。だが今もうここで鳥の足跡が途切れてる。あんたは罪の共犯になったんだぞ、ヴェンツェル。また恐れでいっぱいになっていなければ、わしはあんたにこんなことを言いはせんだろう。頭のあたりで木喰い虫の動めくのを聞いたときみたいにな。何か起きる―それもわしらにとってろくでもないことだぞ、ヴェンツェル。
ボーディ どうしてそう思う？
ダーニエル この鳥の足跡がここで途切れていることさ。他のこともある。わしのところの犬の声を、誰か盗りおった。夜までは、素晴らしい声で月に向かって吠えておった、チークショムヨー6であれよりいい声は聞けん。風があの声を家のまわりに運んでまわるとき、遠くゼテヴァールアヤ7まで運んで行くとき、なんだかちょっとした安らぎを感じたものだよ。そんなこともあったんだ、聞こえるか？（風が氷柱を鳴らす）
ボーディ お前さんのとこの犬の鳴き声は、よく知ってたよ。
ダーニエル そして今、誰かがそれを盗んだ。ゼテヴァールアヤであんな声を聞いた、と言われた。あそこに行ってみるよ。だが考えてみろ、犬が声をなくしてしまったんだぞ。
ボーディ 確かに何か起きる。熊どもは眠らない。大掛かりな冬がやって来た
というのに眠らない。陽のある日中でもここの厩までやってきて、憲兵どもみ
たいなやり方でかぎまわり、うちの馬をいななかせる。同じように、誰かがやつらの夢を盗んだんだ。帰り道で歌おうなんて気を起こすんじゃないぞ。
ボーディ 「大崩れ」の下では、神様のお呼びがあっても、応えるんじゃないぞ。神様だって、われらを試されているだけなんだからな。わしらのうち口をきくものは、雪崩をわれらに招くんだ。そいつだってどうなるか、わからんのだ。
ダーニエル 神様がか？
ボーディ 何のせいだかあの方だって混乱しておいでだ。
ダーニエル 御舵取りにはたくさんの難がある。
ボーディ なんせある方向に舵をとられると、世界は別な方向へ向かうからさ。
ダーニエル 頭がかっかなさっているのかもしれん。そいつは確かだ。
ボーディ だったらなおさら、もっとわれらを心にかけて下さってもいいのに。主にわしらの娘にな。
ダーニエル やつらに注意してるのには、神様が七人必要さ。何人いても手に余るだろうよ。良いクリスマスを、ヴェンツェル！
ボーディ それともし、わしが何か間違いをしたのなら、怒らんでくれ。わしがここで誰に、何に宿を貸すか、知りようがないんだ。高山の山賊にか、禁じられた恋にか。ひとたび雪嵐から、狼の吠え声から戸を叩かれたら、締め出すわけにはいかないよ。それにいつも思うんだ、娘のマーリアが帰ってきた、とな。
ダーニエル いつかあの娘も帰ってくるよ。
ボーディ もう決して帰らんよ。
ダーニエル わしらが生きてる間は希望があるさ。だが、もし氷の鳥を見かけたら、疑ってかかるんだぞ。あのレーカのやつは、聖母の姿でだって現れかねんからな。シュティーグ・アンタルの腕の中で、悪魔の腕の中でだってな、そのときは雄の悪魔だといいが！
ボーディ 後で厄払いの香を準備しておくよ。
（「奇蹟を見た者」ダーニエル、小道を下って行く。ボーディ・ヴェンツェルは家に入る。光が消える。風が吹き、氷柱が鳴る。歌「氷の鳥、氷の鳥、紅い頭の青い鳥！」灯が順番にともる。ボーディの小さな色付きランプである。ボーディは一本の銀色の紐で飾られたクリスマス・ツリーの脇にぐったりとして座る。小さなランプの一つを手にして、その光に見入る）ごらん、これは、わしがお前の贈り物にこしらえた六つめのクリスマス・ランプだよ、マーリア。だが、お前と仲直りしようとしてもムダだな。わしを怒らんでくれと頼んでもムダなんだろう。そのことがわしには、お前を育て上げたお父さんには、よっぽどつらいよ。男手一つで育て上げたんだぞ。だからこそなおさら、どうしてこのハルギタを、海や船乗りと取り替えるなぞ出来たんだ？お母さんの教えを、二束三文にして投げ捨てることが、どうして出来たのだ？山鳥はきれいな羽をまき散らすか？ゴミにして放るか？
（甦る思い出の劇中劇、クリスマス・ツリーの背後からマーリア登場。恋に攻撃的になった、若い頑なな少女）
マーリア （旅支度をして、毛皮付きのコート、冬のマフラーを身に着けている）でも私はこれから行くわ、お父さん！一度船乗りが愛する人となったら、海だって彼の一部なのよ。大洋だってそうよ！彼の言うことがわからないの？彼は私の旦那様になるのよ、お父さんのじゃないわ！じきに私は彼と暮らすんだわ！
ボーディ そしてお前らは二人だけか？こっそりと夜の闇にまぎれて、蝙蝠みたいにか？恋は――もしお前がもうその虜だとしても――人と人の間で生きるものじゃないのか。
マーリア ちがう、ちがう、ちがうったら！
ボーディ そうでなければ、神の御座でだというのか？
マーリア 自分の連れ合いを選んだ、たった一つの心の中でよ。それおしまい！
ボーディ それでおしまいか！道に出て行くこともせん8、親戚もないし、世間の衆のことも問題にせん。お互いが理解出来ないのもたいしたことじゃない！大家族の結束ももうたいしたことじゃないのか？
マーリア 私はそう選んだのよ、お父さん！私が選んだのよ。自分で決めたのよ！
ボーディ わかってる、わかってる！だが忘れるんじゃないぞ、こういった選択で人間には、個人の権利だけじゃなく、ちょっとした務めだってあるんだ・・・
マーリア 務め！へーえ、そんなの私初めて聞いたわ！
ボーディ お前は学び取ることも出来ただろうに！
マーリア じゃ、誰がそんなこと教えてくれたっていうの？
ボーディ お手本が教えてくれたはずだ！お父さん、お母さん、おばあさん、ひいおばあさんのお手本が！説明する必要のないものだ。お手本は説明するんじゃない、それを生きてみせなきゃならないし、生かさなくちゃならないんだ！今日お前が出て行くと、明日は二番目、三番目が・・・そうすると、わしらの生活だったものは、からっぽのカタツムリの殻になる・・・こんなことを説明しなくちゃならんのか？それなのにお前は、これが他の者にはかかわりない、と言うのか？洟垂れの小娘め、恥かしくないのか？
マーリア もうそれを聞くのはたくさんだわ。私は今、お父さんが命令した通りにするのよ。
ボーディ わしが何を命令した？
マーリア お父さんの家で、これ以上目障りになるなって。そう命令したわ、そして私はその通りにするのよ。（出て行こうとする）
ボーディ 待つんだ、娘！わしは、もしお前の荷馬車がひっくり返っても、泣いたり愚痴をこぼすためになら来るな、と言ったんだ。そういうときにはわしの家で、お前には会わないぞ、と。そして、あの船乗りがお前を殴ったら、お前の災難を抱えてわしの方にも神様の方にも向くな、身投げするために始発列車の方を向け、とな！待つんだ！
マーリア そんなことを言われてまで、ここに残るなんて出来ないわ！さようなら、お父さん！
ボーディ （引き戻しながら）わしの許しなしには、ここからどこにも行ってはならん！下の村で、あの何とかいうやつがお前を待っているのはわかっとる。ここにいるんだ。わかったか？
マーリア とめないで！とめないで！とめないで！私行くわ！
ボーディ 行くんじゃない！（頬を打つ）
マーリア （長い間、呆然として父を見つめる、やがて我に帰る）お父さん、私のこと一度だってぶたなかったのに！
ボーディ ぶたなかったよ、娘や。それはお母さんの仕事だったろうし、お前はお母さんなしで育った。ぶたなかったし、これから先もぶったりせんよ。わしを許しておくれ。そしてわしを覆っていた恐れもな、お前はまだそれを知るまい。だが、いずれお前にもわかるだろう・・・
マーリア いつかお父さんが私に不公平で残酷になるんじゃないか、それだけが恐かったのよ。でももう、何も恐くないわ。さようなら。私のことは心配しないで。「大崩れ」の下をそっと静かに出て行くわ。泣いたりしないわ。お父さんが教えた通りに行くのよ。そっと、静かにね。草の茎が氷の小道にまだあるなら、草の茎の上を踏んでね。
ボーディ （娘が出て行こうとするのを止めない）マーリア！お前、娘や！一体どこへ行くのか、わかっているのか？ここに何を置いていったのか、わかっているのか？神がお前を愛して下さっているなら、それを知ることはあるまい・・・・知らせたもうな・・・（思い出の光景消え失せる）わしが力になってやれるような難儀が出来たかもしれないな。だが、今はもうわしを罰しているんだね。孫と言葉を交わせないことで。わしに仕返しするようにと育てているのか？そのためにわしはお前をぶったのだろうか？ここから決定的に出て行ってしまったことでは、お前のやったことは悪かった、マーリア。ひどい怒りと恐れに捕われてお前をぶったことでは、わしが悪いことをした、あれ以前には小さな木の枝で打ったことすらなかったのに。それじゃあ、あれからお父さんへの気持ちが和らいだことはなかったのか？お前、そんなこと言ったって、鳥だって、もしひながしょっちゅう巣から落ちるほど転げまわったら、翼で打つだろうよ。鳥だってそうだというのに、マーリア、お前は。（そっと歌い始める）
もしあなたがマーリアとわかっていたら、黄金で、銀で、お宿をこしらえた
ろうに。そして私の方は、冷たい地べたに寝たろうに。あちらにもきっといらしたろう、でもここに残ってくださったら・・・（氷柱が鳴る、それと共に少女の声）（外からかすかに）「もしあなたがマーリアとわかっていたら、黄金で、銀で、お宿をこしらえたろうに。そして私の方は冷たい地べたに寝たろうに」
（ボーディ・ヴェンツェルの顔が輝く。マーリアが海からやって来たのか？小さな色付きのランプを順にクリスマス・ツリーにかける。テーブルに菓子パンとワインを置く）
ボーディ （歌いながら）・・・あなたがマーリアとわかっていたら・・・私の方は地べたに寝たろうに！そっとな、マーリア！もっと中にお入り、マーリア。安全なように。後で二人で続けよう！「あなたがマーリアとわかっていたら」外は崩れる危険があるんだ、お入り、マーリア！もっとそっと！もし神様がお望みなら、これでもお耳には聞こえるよ！お前たち何人だね？きっと三人だろう、だがお前一人で歌っている。孫に代わって。だが後で神の御子の誕生日にお祝いするのに、わしらで教えよう。もしあなたがマーリアとわかってい
たら・・・
レーカ （入ってくる）神様が、たくさんのクリスマスの日々を、ワインを、小麦をどっさり、充分飲めるようにグラスに底を、たくさんお与えくださいますように！ヴェンツェルおじさん！そんなにびっくりして詠唱者を迎えなきゃならないの？幸福な聖夜を！幸福な祝日を！やって来たわよ、ヴェンツェルおじさん！クリスマスの夜でも、もう一人ぼっちにならないように！まるで一度も会ったことがないみたいに、見つめてばっかりいるのね。ほら、正真正銘の、そして新しい私よ。レーカよ、でも、この間ここに来た私じゃないの、あいつと一緒に・・・名前は言わないわ・・・あのらっぱ銃の男と一緒に。別のレーカよ、ほら！私の指にはもう指輪はないわ！私、火に飛び込んだの、生まれ変わってここにいるのよ。ベツレヘムから心からの喜びの報せを持ってやって来たのよ、ヴェンツェルおじさん。神よ、彼の曇った額を晴れさせたまえ！たとえ「大崩れ」でも！
ボーディ マーリアが歌っているんだと思ったのさ。
レーカ 彼女が帰ってこなくて歌わなくなって六年めね。娘さんの代わりに今夜も私が娘になるわ、ヴェンツェルおじさん。二役でお孫さんにもね。さびしがらないでね、おじいちゃん。（彼の首にしがみつく）あなたの回転木馬に、慰め手になるわ。吉報をもって来たのよ、おじいちゃん。（グラスにつぐ）神様が力づけて下さいますように、おじいちゃん！星のもとで御子が生まれました。神様が力づけて下さいますように、ヴェンツェルおじさん！
ボーディ お前もな、レーカ。だがわしの目に狂いがなければ、お前が持ってきたのは、ベツレヘムの吉報ではないな。
レーカ じゃあ？
ボーディ お前自身の吉報を持ってきたんだろう。特に小さなお前の空の下の、
特に小さなクリスマスを。
レーカ まあ、おじいちゃん！私のベツレヘムの吉報はね、今夜は嘆きといっしょくたなのよ。それをあなたに打ち明けてしまうことが出来たら！クリスマス・ツリーの飾りになってしまいたわ。もし、私の中で恐れが体を揺さぶっていなければね。
ボーディ そいつにはもう、慣れただろうに。
レーカ 私が恐れの一つに慣れると、別な恐れが取り囲んでいるの。
ボーディ たくさんあるんだ、ずいぶん増えてしまった。
レーカ ダンスのときの若衆たちみたい、腕から腕へと私を渡すんだわ。ヴェンツェルおじさん。お父さんが見えるわ、お父さんは死んだ。今でも私お父さんが恐いわ。お棺の中に私、触れる勇気がなかった。お母さんを見ると頭からつま先までぞくっとするわ。どんな視線も、私の秘密をさぐっているのよ。あのらっぱ銃の男が目に入ると、今からお弔いの歌が聞こえるわ。あいつは約束したのよ、もし私が捨てたら殺してやるって。そして私はガーボルと会うのよ。頭のてっぺんからつま先まで、罪の意識でいっぱいよ。彼の私へのこだわりが、それに彼が私たちの子供の頃を忘れていないことが恐いのよ。彼とちりの中で結婚式ごっこをして遊んだころのことよ。新婚のベッドは木の上だったわ。私たち鳥だったのよ。でも今夜は聖夜だわ、おじいちゃん！私たちの中にある、眠れない原因を全部眠らせちゃいましょうよ。気分よ、落ち込むな、おじいちゃん！眠れ、眠れ、マーリアのことも・・・
ボーディ それ以上言わなくていい。あれが出て行って六年目だ。
レーカ おじいちゃんの孫の小さなおめめを閉じろ。
ボーディ わしは六つ目の色付きランプを、あれのためにこしらえた・・・
レーカ お休み、お休み、レーカの心配事や！いやよ、「大崩れ」には飛び込みたくないわ。
ボーディ それ以上言わんでくれ。わしはマーリアを打ちたくはなかった・・・
レーカ この世には許しもなくては。お休み、鷹のかぎ爪ような心配事ども。
ボーディ もうおやめ。
レーカ よすわ。
ボーディ ベツレヘムからゴルゴタの丘に行くのはよそう。
レーカ 行くのはやめましょう。
ボーディ むしろこう言うんだ、お前はどうやって一人で「大崩れ」の谷を登ってきたんだい？
レーカ （我に帰って明るく）うんと勇敢に、でもびくびくしっぱなしでね。
ボーディ 舞い上がることだって出来たろうに。
レーカ 氷の鳥として？
ボーディ お前がそうし慣れているようにな。
レーカ （ボーディには理解し難い喜びと共に）それじゃヴェンツェルおじさんも、もう知ってるのね？私が氷の鳥だって。今までこれ、私たち二人の秘密だったのよ。私とガーボルの。彼が発見したの、知ってる、おじいちゃん？彼が私の名前を考えだしたの。私たち二人の秘密だったのよ。
ボーディ 過去の話だ。
レーカ かまわないわ。世界中が、私が氷の鳥だって知ってるわ。誰かさんの紅い頭の青い鳥よ。私今､彼がここに来るのを待ってるのよ、おじいちゃん。でもお願いだから、私があのらっぱ銃とここに来たことは言わないで。言わないでくれるわよね？寂しがり屋の、一人ぼっちのおじいちゃん！本当は私はここに来たわ。でも氷の鳥としてだけよ。私たちがこの戸から足を踏み入れたとき、私はもう氷の鳥だったんですもの！
ボーディ だがちょうどその逆だったよ。お前はあのときはもうレーカだった。
レーカ そうじゃなかったわ！そうじゃなかったわ！私はあのときはもう、凍えた氷の鳥だったのよ！
ボーディ しっ！風が吹き出した。
（氷柱が音楽をかなでる。そして一人の少年の声が聞こえる。「あなたがマーリアとわかっていたら！」）
レーカ 彼だわ！（歌う）黄金で、銀で、お宿をこしらえたろうに。私の方は冷たい地べたに寝たろうに。
（ボーディは三つのグラスに注ぐ）
ガーボル （入ってくる。レーカは彼の前に進み出る）あなたがマーリアとわかっていたら・・・
レーカ 黄金で、銀で、お宿をこしらえたろうに。
ガーボル 私の方は冷たい地べたに・・・
レーカ 私の方は冷たい地べたに・・・
ガーボル 寝たろうに。氷の小鳥さん。小さな氷の小鳥さん。
レーカ あんたの紅い頭の、青い鳥よ。ずいぶん待ったのよ。小さなイエス様はもう、飼葉桶のゆりかごから育ってしまわれたわ。それ位長く待たされたのよ。
ガーボル 僕の紅い頭の青い鳥さん。だけど驚いて羽をばたばたさせると、緑色のところも見えるね。
レーカ 神様がお守りくださいますように。もし私が羽をばたばたさせたら、緑色全部が見えるわよ。（笑う）でも、びっくりしなかったわね。あんた、ガーボルちゃん！
ガーボル （驚いてはいないと首をふって）一人で歩いて来たのかい？
レーカ あんたと来たのよ。
ガーボル 僕と？ああ、そうだったね。もう六年になる！
レーカ （鋭く）六年めじゃないわ！六十年めよ！大昔のことじゃなくて、今日の聖夜のことよ。頭の中で、私はあんたと来てなだめすかしてたのよ。あんたの歩くのが「大崩れ」の下で音をたてないように、私が待ってるという喜びから、あんたの心臓がドッキンドッキン鳴り響かないように。ひょっとしてそんなことにでもなったら、興奮しないように。こんな風に本当に・・・あんたの右側を来たのよ。
ガーボル いつもし慣れているようにはしないで、雪の中を歩いて来たんだね。少なくとも今位は舞い上がってごらんよ。
レーカ （首にとびついて旋回する）それじゃ緑色のとこだけは見ちゃだめよ！あんたの目がくらむわよ！
ガーボル （その間、少女と共に幸せそうに回転する）氷の鳥、氷の鳥、紅い頭の青い鳥！翼があったのなら、氷の鳥、どうして歩くものに加わったのだ？
（外では風が吹きだす。氷柱が音楽を奏でる）
レーカ 回りましょう、回りましょう！根掘り葉掘りきくのはやめましょう！
ガーボル （彼女を降ろす）どうして歩くものに加わったのだ？
（沈黙。互いを見つめる。互いを非難するタカのかぎ爪）
ボーディ ところでわしの方は、ここでグラスの番をしてるんだがな！
レーカ ごめんなさい、ヴェンツェルおじさん！ボーディおじいちゃん！知ってる？、ガーボル、今夜は私ヴェンツェルおじさんの娘と孫になったの。海が、大事なおじいちゃんを一人ぼっちにして、この家から連れて行ってしまったものを、私が埋め合わせしているの。海は私のことだって連れて行ったかもしれないけれど、私はそうはさせなかったわ。ごめんなさい、ヴェンツェルおじさん。こんな風でガーボルと二人だと、何もかも忘れてしまうのよ。そういうとき、世界には誰もいないし何もなくなってしまうの。
ボーディ せめてその通りになればなあ、娘や。お前も言うことは同じか？ガーボル？
ガーボル レーカが僕に代わって全部言ってくれました。（グラスをひっつかんで）神様が力づけてくださいますように、ヴェンツェルおじさん！僕らを入れてくださってありがとう。
ボーディ 詠唱者は迎え入れなくちゃならん。
ガーボル 詠唱者はやって来て出て行くだけですけど、僕らは、松ヤニも持ってきてここに貼りついたんです。六年前のように。ヴェンツェルおじさん、覚えてる？あのときレーカは十六才でした。
レーカ そしてあんたは十五才、おじいちゃんはよく知ってるわよ、昔の話でおじいちゃんまでうるさがらせなさんな！飲みましょう！
ガーボル あのときも僕らは二人でここに貼りついた・・・
レーカ あんたが「大崩れ」の真下にいても、ひっきりなしに子供の頃の亀裂にへばりついて忘れないようにね。ヴェンツェルおじさん、来年のクリスマスにはマーリアも、彼女に抱かれたお孫さんもここにいるようにと祈ります、そして今、夜は私たちを好意と理解で迎えて下さい。クリスマスの夕べだけれど、私たちにとっては晩なんです。でも私たち二人、ここからもうどこへも吉報を運びはしないわ。ガーボルと話し合わなくちゃならないことがあるの。神様が力づけてくださいますように。（全員飲む）
ボーディ なら話し合いなさい！だがいいね！言葉に火を吹かせるんじゃないぞ。それからだって火事は起こり得るんだ！わしの家の掟に従ってもらおう。すでにあの頃、亡くなった妻と話しあって決めたもんだ、たとえ泣かなくてはならないときでも、内側に向かって泣くんだと。遠くまで聞こえるような高笑いもおさえよう、と。もし出来るならば、お互いにわかり合うようにするんだな。
レーカ 歌うときは、一緒にそっと飛ぶわ。
ボーディ そのときは歌にのせて話すんだぞ。それと窓を開けるんじゃないぞ。
（退場、やがて再び現れる）忘れていたことがある。あんまり好きあうんじゃないぞ。
レーカ でもそうなるわ。
ボーディ 今日は恋の日じゃなくて、むしろ愛の日だ！
ガーボル 恋のことは思い出すだけにしますよ、ヴェンツェルおじさん。
レーカ まだそれだけは十分やってないんだわ。
ボーディ それだってちっとも良いことはない。そのときはもう痛みにしかならないからな。お互いの心をチクチクやることはない。（退場）
（長い沈黙）
レーカ さ、もう言われちゃったわよ！お互いの心をチクチクやることはない。聞いた、ガーボル？聞いた、レーカ？レーカには聞こえたわよ。
ガーボル じゃ、そんなことが出来るのかい？
レーカ 決まってるじゃない。（ガーボルの腕に座る。彼は抱く。二人は口づけする）
（沈黙、互いに見つめ合う）
ガーボル 今度はもう、本当に決定的に別れたんだね？
レーカ 誰と？
ガーボル それを訊くの？
レーカ もちろん訊くわよ。あんたが考えてる人のことは、もうとっくに忘れちゃったわよ。でもあんたは私の思い出まで取り上げるのね―あんたの内では彼の記憶がもぞもぞしてるんだわ。むしろ総げいこをやりましょうよ。いい？小道具まで持ってきたのよ。私がお母さんになるわ。あんたが求婚者よ、でもどんな風にふるまうか気をつけてね。よく知ってるでしょうけれど、うちのお母さんは言葉にはすごく敏感なんだから。打てば響くようなのが、好きなのよ・・・
ガーボル 申し込みにまで注文が多いんだな、あんなに求婚者がいたからだろう。
レーカ いましたとも！私きれいだったもの！引く手あまただったわよ。
ガーボル そしてもうきれいじゃない？
レーカ あんた、わかってるはずよ。
ガーボル きれいだよ。前よりもっと。
レーカ （半ば歌いながら、半ば歌なしで）三日目まではバラはきれい。二十歳の頃までは娘もきれい。でも二十一を過ぎたなら、青いリボンは髪にもう合いはせぬ。そして、ああ神様、私はもう二十二になるのよ！
ガーボル 君に青いリボンは必要ないさ。君は青い鳥だ。
レーカ だから今晩、私が雪の小道であんたについて行ったとき、気がつかなかったのね。
ガーボル どうやら君の足跡なら見たようだよ、首に架ける小さな白い十字架さ。チョンチョンチョン・・・シュー！
レーカ シュー！それなあに？
ガーボル え〜と・・・それは僕の足跡さ、わかる？僕の長靴のさ。
レーカ チョンチョンチョン・・・シュー！さあ、それじゃ、シュー、シュー！求婚に出発！
ガーボル 行くよ、行くよ。でもその後で、君がいつもやっているように、家から消えたりするんじゃないぞ、君は、君は・・・どこにいるのか、どこに飛んで行くのかわからない氷の鳥。空色で、緑色がちょっぴり混じっているんだ。でも、もちろん、僕が見たのよりもきれいな緑だよ。
レーカ いつ？
ガーボル 親父が僕をひどくぶちのめしたときさ。
レーカ あんたは、あらゆる言葉で、ぞおっとさせられる思い出に足を踏み出すのね。我に帰りなさい、大事なシオン、あんたにはまだ神様がおいでよ。ここにはお前の脇に、お前と心を分かち合うレーカがいる・・・
ガーボル ああ、お前、この地獄め！神様まで、お前の仲間に仕立てあげるのか。どうしよう、君にさからって何が出来る？
レーカ すぐ求婚に出発せよ！
ガーボル すぐ求婚に出発するよ！ちょっくら勇敢さを引き出すのに、酒場に入ろう！（飲む）
レーカ お母さんは酔っ払いがきらいなのよ。それから忘れないで、やがてレーカがそのテーブルに座るのよ。（ツリーからランプを一つはずす）私はこれになるわ、この小さな色つきのランプよ。だけど、どんな風にしゃべるか気をつけるのよ。最初のふさわしくない一言で私は消えてしまうんだから。消えるのよ！わかった？
ガーボル ああ、天よ！ここにはなんて危険だらけなんだろう！君と別れることすら完全に危険だ。（くちづけ）
レーカ でもどうしてあんた、別れるの？
ガーボル だってもどってきてからは、君の代わりにここでお母さんと会うんだから。
レーカ それだとあんたにはまずいの？おいしいスープは老いぼれのめんどりで作るのよ。
ガーボル きつねに進呈するよ。
レーカ たった一人の優しいお母さんを？あんたに、私を生んでくれたのよ。（戯れて）あんたの髭を引っこ抜いてやるわ。
ガーボル 僕に生んでくれた？
レーカ 夜は糸をつむいで、昼間は洗濯・・・あんたの目もくり抜いてやるわ！
ガーボル かわいそうに、僕の目！
レーカ かわいそうに、とても苦労して耐えてきたのよ！あんたの耳を引っこ抜いてやるわよ！レーカの、私の優しいお母さんを？
ガーボル ああ！それじゃ、いっそ額に飾ろう。
レーカ 額に飾って、それから彼女に懺悔するのよ。このお母さんを悲しませるやつ！ お姑さんを冒涜する、異教徒め・・・
ガーボル （相変わらず芝居じみた陽気さで）それじゃ僕はまさに、懺悔しなくちゃならないことを抱えている奴、というわけか？
レーカ まさにあんたはそれだわ！それなのよ！後で私に、あのエビ足のことを懺悔しなさいよ！
ガーボル そのことまでかい！やれやれ！
レーカ あんたが門を刻んでやって、五月の木9を立ててあげた、あの恋人をうまくせしめたやつのことよ・・・このお調子もの！
ガーボル もうちょっと座りこんでるよ、ガーボルちゃんは、待ちきれないもの！
レーカ おだまり！もう大人になりなさい、兵役をすませて、急ぐのよ！
ガーボル （全くまじめさを欠いて）君ときたら婚約してたんだぞ、そして僕はお調子者かい！
レーカ 私はたまたま間違ってたのよ、でもあんたにはそんな必要なかったでしょう！
ガーボル じゃあ、僕はそうしちゃいけないのかい？
レーカ だめよ！だめよ！あんたはまだ小さいのよ！だめ！
ガーボル （突然まじめになって）もし、この世でただ一人、懺悔すべきことがある娘がいるとすれば、それは君だけだよ、レーカ。
レーカ （ぎょっとして）私？あんた、私をそんな風に見てるの？そんな風に見える？
ガーボル 見えない、見えないよ！言ってみただけだよ、ゲームだ・・・
レーカ ゲーム？誓ってごらんなさいよ、ただのゲームだって・・・（長い沈黙）
ガーボル 僕らのあの桑の木は切ってしまったんだ。だからって怒らないでくれよ。僕らが結婚式ごっこをしたとき、真っ先に君があの上のとび乗って言ったんだ。「あがってらっしゃいよ、あなた」木の下では、ジプシーの子供たちが輪になって音楽をやって、付き添いの娘たちがはやしたてた。「そうしたいのよ。そうしたいのよ！」って君は叫んだんだ。「あの雉の巣が私たちの新床になるんだわ！」あの中には入りようがなかったっけ。そして僕らが木から降りたとき、君は小さい輪っかのパン菓子をエプロンの下に隠して言ったんだ。「私のお腹、大きくなるわ。私たちの子供が出来るのよ、ガーボル！男の子と女の子とどっちがいい？」「君がボスだ」僕は言った。「君の好きなほうでいいさ」
レーカ もういいわよ！いいかげん大人になって、あの切っちゃった桑の木から降りてらっしゃい。小さなガーボルちゃん、もう大人になりなさいな、そうして兵役をすませて、急ぐのよ、ガーボルちゃん、待ちきれないのよ！
ガーボル あとちょっとだけあの桑の木に座ってるよ。
レーカ あんたは切っちゃったのよ！切っちゃったの、あんた仕返ししてるのね！じゃ償いをするのね！すぐ出発して求婚にいらっしゃい、ここでお母さんにあって、そこで私に会うの。私は空色のランプになるわ。もう一度言うけど、もしあんたがうまくしゃべらなかったら、私はすぐ消えるわよ。さ、出てって、来るのを楽しみに待ってるわ。
ガーボル 楽しみに待ってる？
レーカ 今夜を楽しみに待ってたようにね。「大崩れ」の下をこっそり行きながら、冬の稲妻の間でさえよ。神様、雪の柱がどんなに恐かったことでしょう！そして恐ければ恐いほど、私の中の白い柱にどなってやりたいという望みは高まったわ。「だからこそますます愛するんだわ」ってね。
ガーボル 誰を愛してるの？
レーカ ローマ法王だとでもいうの。行って！それからいい、犬を忘れちゃダメよ！吠え声を忘れないで、ここではそれでワクワクが始まるんだから。一体誰が来たのかしら？来るとしたら誰かしら？なぜ？だけどいい！お母さんが何を言おうと、あんたをあら捜しで攻撃しても、あんたの方はどの位愛してるか、ということだけ話すのよ。でも昔のことは持ち出さないのよ！子供の頃どんなに好きだったかは、言ってはダメ！今のことを話しなさい、この夢ばっかり見
ている、過去を糧にしている子供め！それと明日のことも、きれいに飾って盛
くわ。
ガーボル 君が取りかかった場所は不適当だな。お母さんには、未来を飾り立てる必要はないさ。それどころか現在の方こそ、そうしなくちゃ、少なくともシュティーグ・アンタルと同じ位の公務員給与、すませてしまった兵役でね。こいつはお母さんには、まるで自分が防衛大臣夫人であるかのように重要なんだから、それから多分口ヒゲもだ、なんせさもなけりゃ「お乳臭い口」って言うんだから！
レーカ 口ヒゲよ生えろ！公務員給与よあれ！
ガーボル 口ヒゲは生えるかもね。でも公務員給与はどこから出るのさ？
レーカ 国家はあんたに巨大な門を発注したのよ。
ガーボル でも何のために？
レーカ その下を通って行進するためよ。
ガーボル どこに向かって行進するのさ？
レーカ いいかげんにしてよ！そんなことが大事なの？私の手を得ることじゃなくて？飲まないのよ。
ガーボル 勇気に点火するんだ。
レーカ 確かにそうしなくちゃ。おおいにその必要があるわね。一度あんたを捕まえたら・・・主の天使達、半ズボンの男の子を守りたまえ・・・そして・・・そして・・・
ガーボル 僕が？半ズボンだって？
レーカ 精神的に半ズボンなのよ。そいつのお尻をたたいてやるわ、ふんじばってやるわ・・・
ガーボル ふんじばってね・・・
レーカ キュキュロー10の流れで洗って、洗濯棒で叩いてやるわ・・・
レーカ お日様に広げて、漂白するわ・・・おっと、漂白はしないわ。色付きに染めてやる。あんたで色付きの生地を作るの、それを山にかぶせるわ・・・
レーカ 私はそんなの望んでないわ。そうじゃなくて忘れるためよ。
ガーボル 君を忘れるように？
レーカ あんた自身をよ・・・あの子供時代の裂け目の中の・・・そして私のことも・・・さっととび去った数年間のことも・・・私が違う方向に向かったときの・・・
ガーボル 君が別のやつと行ったときの・・・
レーカ 私はノアの箱舟から飛び出したからよ。私は長い時間、ぐるっとまわ
って飛んでいただけよ。ふーう、あそこではなんて薄暗い日々が流れていたかしら！それから飛んでもどったわ。そして再び私はここよ・・・
ガーボル オリーブの枝を持って？平和の伝言と共に？
レーカ 私はあんたと同盟を結ぶからよ。そしてもしあんたが忘れないなら、忘れることを学ばないなら、ああ、あんたとは何をしたらいいのかわからないわ。
ガーボル 君はもう学んだというのかい？
レーカ （今やまじめに）あんたと別れたときから始まって、全ては悪い夢に過ぎなかったのよ。今､今、今目覚めがやって来ると、夢の中でわかっていなかったら、私の心だって張り裂けたでしょう。びくびくして自分を起こそうとしていたわ。一本の門柱に見を投げたわ、そしたらそれはあんたのだったのよ。私の涙はあんたの彫刻した鳥の一羽の上に流れて、その目の中で止まったの。ああ、言わせてもらうけど、その鳥だって私のことを悼んでくれたのよ・・・私は目覚める前はこうだったの。そして今、私たちここにいる、ここにいるのよ！とにかくあんたは、すぐ出発してただちに求婚にもどって来るのよ。そうしなかったら、私の翼が殺すから。
ガーボル それじゃ、お母さんが僕とどんな風に話すか、気をつけるんだよ。僕を無視しないように、僕の人格のあら捜しをしないように、僕はその場で足元にまきを積んでやるからな！そしたらもう魔女の火あぶりのときだぞ。（ガーボル踏み出す）
レーカ あんたは求婚に出かけるのよ、お姑さんに火をつけるためじゃないわ。（鏡の前で中年婦人の扮装を始める）あんたの心が謙遜になりますように、あんたの言葉全てが豊かになりますように！犬を忘れないでね！お母さんの黒いスカーフはどこ？ああ、神様！なんて私は待ち焦がれているんでしょう！喜びが私の上をざーざー流れてて、それでもやっぱり私、何かしら悲しいの。こんな風になるものなの、お母さん？お母さんの口の端には未亡人のしわがなくっちゃね。（引く）これを採用するわ、この頑ななしわを。これでお母さんは、ガーボルを家から追っ払ったのね。これで私を、あのらっぱ銃の公務員給与のやつにやったかもしれないわね。呪われろ！（ぎょっとする）ああ、何を言ってるのかしら！ごめんね、お母さん！神様、お許しを！お二人でー私に対してー頭をつきあわせて、協議するのだけはやめて下さい。そうなったら私たちの運命は決まってしまいます。むしろ話し合いましょうよ、お母さん。私は恐れの網の中でもがいているの、悪魔本人とだって取引するつもりよ。あの森の空き地にいる私だけを見よう、きれいなってあの子と一緒にいる。でも、未熟だとは言わないで！墓標と門を刻むとき、いちいの木の中で雌鹿を見つけたとき、彼の目は老人のまじめさで曇るのよ。それを見て、そういうときの彼を見て、お母さん！彼が夢を追ううちに一年どころか、二年年をとるときに、だって走ってる雌鹿をつかまえるのは、いちいの木からおびき出すのより難しいんだから。私が彼よりも年上だって言わないでね、お母さん。ほんの数年よ！一生全体に比べたら、それが何よ、額のしわ一本だわ。ひぇ〜、お母さんって厳しいわね。また、理性に支配されてるのね。むしろ心で話してよ、お母さん。もし私には心も、理性もなかったとしたら・・・あのとき、あのとき・・・しっ！誰か来る。もう魂を包みなさい。誰か来るわ。
（外から犬の鳴き声。レーカ突然腰をおろし、機械的な手仕事にとりかかる。例えば毛糸の玉を作るなど。新たな犬の鳴き声）
ボーディ （ベッドから起きてきて）ありゃ何だ？わしは犬は飼っとらんぞ。一体どこから来たんだ？それからお前どうしたというんだ、レーカ？明らかにお母さんじゃないか。
レーカ それなら結構なことだわ
ボーディ 扮装はクリスマスにやるもんじゃないぞ。（新たな鳴き声に）じゃ、あいつは現れたのか？
レーカ 何ですって？
ボーディ 「奇蹟を見た者」ダーニエルの犬の失われた声さ。ここにやってきたらしいな。
レーカ ガーボルが外にいるのよ。
ボーディ 彼が吠えてるのか？
レーカ 二役でね。
ボーディ 一体今、吠えてるのかい、それともお前に求愛してるのかね？
レーカ 彼、私に申し込みをしたいのよ。
ボーディ よりによってこんな形でか？
レーカ これが一部なの。
ボーディ お前の要求の一部か？
レーカ 総稽古のよ。明日の晩、正規の上演があるの。お母さんの見ている前で。
レーカ 私はただ、求められたものを与えるだけよ。
ボーディ 何を求められるんだね？ああ、そうか。お前の手か。
レーカ 娘の手よ。
ボーディ 娘の手か。そうとも、そうとも。お前は今レーカじゃなくて、何とかさんか。
レーカ 未亡人の何とかさん、アールヴァイ・ボルバーラよ。（吠え声）
ボーディ ボルバーラ！お前さんがボルバーラなら、なんで娘に気をつけていないんだね？
レーカ なぜ？娘が何かしでかしたの？
ボーディ よく見てみることだ。
レーカ （お芝居ながらも自暴自棄になって）私がしでかした！私の目を見て言ってごらん、うちの娘が何をしでかしたって？でも誰にも言わないで！私にだって！そのことについては知りたくないわ。（吠え声）それについては知りたくないわ。全ての思い出は「大崩れ」に消え失せよ、雪の下、氷の下に永遠に行ってしまえ、忘却が厚く覆ってしまえ！秘密はお墓まで持って行ってよ、ヴェンツェルおじさん。おお！めまいがする。気分が悪いわ。家が私の周りでまわっている。（ノック）よりによって今。今こなきゃならないなんて。
ボーディ どうしたんだね、娘よ。
レーカ 水！水を少しちょうだい！何でもないわ。めまいがしただけよ。よりによって今だなんて。
ボーディ 芝居がよくなかったんだよ、娘や。
レーカ まるで誰かが私を壁から壁へと小突いてるみたい・・・よりによって今（ノック）今になって！どうぞ！どうぞ！お入りなさい！
ボーディ お前、少し横におなり！
レーカ 今はだめよ。
ガーボル （入って来る）今晩は、良い祭日を！
レーカ あなたにも良い祭日を、ガーボル！あなたなんて呼んでも、怒らないでちょうだいね、でもあなたがあんなに有名な門彫刻家になってからというもの、他に呼びようがないの・・・家で座ってってちょうだいな。（スカーフで椅子を払う）おお神様、めまいがする！
ボーディ この水をもっと・・・
ガーボル どこか悪いの、ボルバーラおばさん。
レーカ すぐ直るわ、坊や。何もかもすぐ直るわ。娘だけはもっと具合よくなってほしいけど。
ガーボル 娘さん、どこが悪いの？
ボーディ 気違いのたわ言・・・おまけに一度に二人ときた・・・（出て行く）
ガーボル で、娘さん、どこが悪いの？
レーカ ここでは火の鳥、またあそこでは氷の鳥。どうしてあの子の内で熱さ、寒さが投げ散らかされているのか、それがわかりさえすればねえ。予想は出来るけれど。家からどこに、あれやこれややらせに行かせても、あなたの門の前でこっそり立ち止まれるように、といわんばかりにもどってきてしまう、見た人の話だと、空に向かって跳躍する雌鹿に見とれてしまって、神よ守り給え、まるで鹿を刈る乙女のようだそうだよ。もう私のめまいも直ったわ。
ガーボル じゃあその後は彼女､何をするの？
レーカ あの子の言うことには、夢の中でまでべったり門柱にすがりついてその上に、あの彫刻の鳥が全部泣き出すまで、涙を流しに流しているんだって。考えてもみて、考えてもみて、ガーボル！
ガーボル 彼女から僕が聞いたのはそうじゃないな、聞いて。泣き出したのは、一羽の鳥だけで、そしてそれがどれだったか僕にはわかっている。
レーカ だって同じことじゃない？
ガーボル そうでもないよ。だってどの鳥にだって泣く理由はないんだから。
レーカ だけどあたしはあの門柱を火にくべるわよ、ガーボル坊や！火に！
ガーボル あれが誰かに悪いことをしたの？
レーカ 娘が夢の中でまだ長いことあれにすがりつくようなら、火にくべてやるわ。お前、今は私が言うことをきくんじゃないよ、レーカ。私の小さなランプちゃんは、苦い夢を恥じて、ここではほとんどまたたこうとしないのね、ガーボル、ちょっとその焔を、もっと高くしてよ！
ガーボル 魂を中に吹き込んであげるよ。（吹き込みながら）明るくともれ、明るくともれ、白いろうそくの芯。歌ってあげるから、輝け。ああ神様、以前はなんて楽しかったでしょう。僕の人形が僕の門の前を通ったあの頃は。でも、あの子があそこに来なくなってからは、あの子に会えなくなってからは、僕の心は喜びを見出せない。
レーカ でもあそこまで行っているのよ！いつだってあそこに行ってるのよ！じゃあ知らなかったの？このまぬけ！・・・ガーボル、あなた！
ガーボル 知ってる、知ってるよ。一度もう、彼女と行ったもの。
レーカ （これはもう危険な領域なので）多分そんなはずないわ！でも言って、祭日だということ以外に、何の用で家にみえられたの？ガーボル。
ガーボル ごきげんいかが？ときくつもりだったんです。
レーカ それなら・・・人生は矢のごとし。やっと後を見送る位しか出来ないほどせわしないんだから。そのときはもう、後の祭りというわけね。（長い沈黙）
ガーボル 人間、早起きするのはまずいし、遅くなってから出発するのも、良いことはないしね。
レーカ （これも危険な領域なので）どうとったらいいかわからないわね、ガーボル。それで、どうして私たちのことを思い出してくださったの？
ガーボル ここまで来たんで考えたんです、ちょっとのぞいてみようって。
レーカ （芝居をやめて、スカーフをとって）まずいわ。
ガーボル どうしてまずいの？
レーカ 全部がまずいからよ。ランプのところだけは良かったわ。明るくともれ、白いろうそくの芯。歌ってあげるから、輝け。ああ神様、以前はなんて楽しかったでしょう。以前は楽しかった。だけどこれは何の話よ、「ここまで来たんで考えたんです、ちょっとのぞいてみようって」。そんなにためらってたんじゃ、目的にたどりつけっこないわよ。
ガーボル 僕ためらっていたかい？
レーカ 娘じゃなくて、借金を申し込む人みたい。
ガーボル いきなり本題にとびこみたくなかったんだ。
レーカ でもそうしなくちゃ。スバリとこなくっちゃ！
ガーボル 他の連中がそうしていたからかい？
レーカ （ぎょっとして）他の連中がどうしていたか、私たちには全然関係ないわ。これは私たちの問題よ！私たち二人の問題なのよ！だけど、これもあんたは質問でダメにするのね・・・
ガーボル 多分他の連中だってこうしてただろうなんて、こんなちっぽけな、どうってことのない質問で？
レーカ あんたは質問するだけじゃなくて、すぐに自分で答えを出すからよ。私の方は何も恐くないわ。恐いのは、あんたが自分自身の質問に自分の内で、自分に向かって答えることよ。
ガーボル 君が答えてくれるなら、その方がいいよ。
レーカ （厳しく言う）何に答えるの？
ガーボル 今は何も。何も訊かないよ。（飲む）
レーカ 飲まないの。あんたには他の仕事があるのよ。
ガーボル うるさく訊かないこと。それが僕の仕事さ。
レーカ 怒らないで。あんなに優しく、小さな青いランプを吹いてくれたじゃない。ああ神様、以前は楽しかった。僕の人形が僕の門の前を通ったあの頃は。今だって彼女はあそこを通っているわ。毎日。もし悪く言われなければ、毎時間、毎分でも・・・あんたは・・・あんたは・・・あやふやになって・・・
ガーボル 僕は急にあやふやになって、なんだか悲しくなったんだ、レーカ！どうしてお母さんは、泣いてる鳥とかその他のことを話すのが重要だと思ったんだい？まるで娘を誰かに押し付けたいみたいじゃないか。つまり僕にさ。
レーカ そんな必要はないわ。そうでしょう？
ガーボル どんなもんだか！
レーカ だったら気にしなさんな！彼女だってまずく演じたんだわ。
ガーボル でも、どうしてあんなこと言ったんだい？なぜ？
レーカ （まじめな会話を避けて）これだから、私に怒られるのよ。もう一度だけ、あえて私の夢のことを言い触らさせてみましょうよ！
ガーボル でも、彼女が言い触らす理由はなんだい？
レーカ 言い触らしても、雀も婿さんも捕まえられないってことを、彼女は知らないからよ。やり直しましょう。
ガーボル やり直そう、でももう吠えないよ。
レーカ だってあれは重要なのよ、あれを聞いて、私はお母さんに「しいっ、誰か来たわ」って注意するんだから。そしてあんたが来るのよ。
ガーボル 来るさ、でも吠えないぞ。
ガーボル 君がそれにこだわるなら、退場の一部になるのさ。
レーカ だってそれがどの位の手間なのよ？
ガーボル 全然。つまりその、わからないけれど・・・（怒って）吠えないよ！
レーカ そんな風に怒ってるときのあんたって好きよ！もう一度怒鳴って！
ガーボル なんでそんなに、僕が君に吠えることにこだわるんだい？
レーカ わからないわ。これで完璧になるのよ。あんたは私のところに、犬に気づかれないように入ってくるなんて出来ないんだから。
ガーボル 僕に吠えつかせるなよ！僕はよそ者じゃないぞ。僕はここの、らっぱ銃の国家公務員じゃないぞ！それにここの犬たちは、例えば声を盗まれてしまっているんだぞ。
レーカ （ぎょっとして悲しそうに）あんたの言う通りよ、ガーボル。あんたはよそ者じゃないわ。らっぱ銃をもった国家公務員でもない。あんたはシュティーグ・アンタルじゃあないんだわ。
ガーボル その名を僕に聞かせるな！
レーカ 聞かせるな、ですって？あんたは、ひっきりなしにそれを言いたがるわ！私はあんたに代わってそう言ったのよ、あんたの咽がうずうずするのが静まるように。行って、好きなようになさいよ。犬を連れてでも、犬なしででも、心無しで・・・
ガーボル 怒るなよ、レーカ。君を傷つけるつもりじゃなかったんだ。
レーカ 私はどう傷つけられても仕方ないんだわ。行って、行って！
ガーボル 神よ、君をあつかましくも傷つけるやつを、この僕から守りたまえ！
レーカ 自分の言ってることがわかっていたらねえ！ああ、わかっていたら！どうかそうなりますよう！いつでもそうでありますように！
ガーボル そうなるとも！いたずらな神様にかけて！
レーカ 聖夜なのよ！冒涜するんじゃないの！あんた一体どうしちゃったっていうの？（互いに長い間見つめ会う）
ガーボル 今の君の顔、なんて老けてるんだ。
レーカ （驚いて）私の、それともお母さんのが？
ガーボル 今じゃもうわからなくなってしまったよ。自分が見ているものが。
レーカ 私が年寄りだっていうやつを、私たち、演じているんじゃない？私はボルバーラじゃなくて？レーカ・ランプちゃんはそこのテーブルの上にいるわ。（神経質に笑って）決まってるじゃない。私、後家さんのしわを取り入れたのよ。それにあごの下で結んだこの黒いスカーフまで・・・
ガーボル 思うんだけど、君、頭にスカーフをつけてさえいないよ。
レーカ ほんとだわ！私ったら何言ってるのかしら？ほら、何を言ってるのかしら。私ったらスカーフを被ってもいないくせに、被っているって言うのよ。
ガーボル 君、スカーフを被っていないくせにさ。
（二人とも大笑いする）
レーカ あんた、私のお母さんと話してることがわからなかったの？
ガーボル いつ僕がわからなくなった？
レーカ 私が老けてると思ったときよ。
ガーボル もちろん、わかってたさ。ただ、一瞬忘れちゃったんだよ。
レーカ 動作だって私ふけさせたのよ。それらしく似るように。
ガーボル だから取り違えたんだ。間違いなくお母さんだったよ。
レーカ （顔からしわを拭きとって）今でも？（回転する）今でも？
ガーボル もう、ちょっとだけになったよ。その大きなスカーフのせいだな。
レーカ （スカーフを投げ捨てて、再度回転する）これでも老けてる？
（ゆっくりした、やがてだんだん早くなっていくリズムの旋律。氷柱が鳴る。レーカはダンスを始める。最初は遊び半分、やがて捨てばちになって、服を脱ぎ散らかす）
ガーボル もう、ほんのちょっぴりだけになったよ。
レーカ これでも老けてる？出来るんだったら、私と歩いてごらんよ。
ガーボル （踊るが、こけつまろびつする）君にあわせて若返るよ。
レーカ これでも老けてる？あんた私と一緒じゃ、すぐ年寄りになるわよ。これでも老けてる？
ガーボル 海では、いつもこんな風にしてたのかい？
レーカ そうよ！海でよ！一度だけ海を見たわ・・・
ガーボル もっと何度だって見たはずだぞ！
レーカ そうよ！海で！これでもまだ老けてる？
ガーボル シュティーグ・アンタルとも君はいつもこうだったのか？
レーカ そうよ！シュティーグ・アンタルと！どうしても聞きたいっていうならね！彼の名前をきいてあんたの耳が痛くならないのなら！あんたの心が痛まないんだったら！シュティーグ・アンタルと！
（外から一人の女の声）
声 詠唱してもいい？
ガーボル どうぞ。
レーカ だめよ。聖夜じゃないわ。クリスマスじゃないわ！何もかにももう、毒が入ってるわ！
（娘たちはドアからに突撃して踊り始める）
レーカ みんな！私、老けてる？この悪たれに言ってやって！私、老けてる？
ガーボル もうよせ、レーカ！
レーカ まだよ！まだよ！どうせ毒を入れるんなら、まだ充分じゃないわ！シュティーグ・アンタルもここにいればいい！シュティーグ・アンタル！シュティーグ・アンタル！
（ガーボル、小さな青いランプをつかみ、窓から投げ捨て、やがて座って飲む。陰鬱に見つめている）
ボーディ （ベッドから起き出して、長い寝巻き姿で入ってくる）なんたるこった！神よ！ソドムだ。ソドムだ。（開けっ放しの窓を閉じる）ハルギタがそっくりお前たちの上に滑り落ちてくるぞ！
レーカ ヴェンツェルおじさん！私ここにいたわよね、シュティーグ・アンタルと一緒に？
ボーディ 嘘をつくんじゃない、すぐに服を着なさい！
レーカ 私は老けているのよ！そうする力はないわ！だってシュティーグ・アンタルとここに来たんですもの。
ボーディ お前はここには来なかった。あれは氷の鳥だった！
レーカ シュティーグ・アンタルと氷の鳥よ。おじさんも言ってかまわないのよ！言って！毒を盛りましょうよ！
ボーディ 聖夜を台無しにするんじゃない！
レーカ 台無しにして、傷を引き裂きましょう！私たちの傷を引き裂いて、塩をすりこむの！シュティーグ・アンタル！海岸！氷の鳥！
ボーディ 静かにするんだ、レーカ！神の御名にかけて、もっと静かに！
レーカ もうこうなっては、うるさくするだけよ！もうこうなっては、私はこう生きるの！
ボーディ 気でも狂ったのか？みんなおかしくなってしまった。よりによって聖夜に！こんなことをお前たちに許した神は誰だ？主よ！ベツレヘムの飼葉桶の中の幼児イエス様！わしは何も見なかったことにしよう！ガーボル、お前！どうにかしてこの娘たちを解散させなさい！水鉄砲をもってこよう！こいつらは悪魔だ、敬虔な民ではない！かの地では三人の博士が星と共に歩み、謙遜な羊飼いたちが天に感謝を捧げているのだ、と言ってやれ！こんな異教徒みたいな振る舞いをさせておくんじゃない！わしの家をソドムにするのか！見なさい、わしまでここで寝巻きで阿呆なまねをしてるんだぞ！（さっさと出て行く）
レーカ もどってきて、ヴェンツェルおじさん！もどってきて、みんなに言ってよ！私は老けていて、罪深くて、海岸の娼婦なんだって！
ガーボル （わめく）たくさんだ！家に帰れ！
（娘たち、レーカが服を着ている間、彼女の周りを囲み、そっと言う。
あなたがマーリアとわかっていたら、
黄金で、銀で、お宿をこしらえたものを。
私の方は、冷たい地べたに寝たものを）
みんな、家へ帰れ！
（娘たち、声もなく急いで出て行くが、レーカはどこにもいない。その場にスカーフ一枚）
レーカ！レーカ！（スカーフの方へ進んで、まるで鳥がその上に乗っているかのように、取り上げる）僕の氷の鳥！みんな出て行った、そして君が一人残った。氷の鳥！紅い頭の青い鳥！翼があったのなら、どうして歩くものに加わったのだ？君の心臓は早く脈打ち、良くない場所に焦がれる、そうだろう？シュティーグ・アンタルを欲していて、海に憧れている。それじゃお飛び！思うがままに飛び立て！（窓から、鳥を放つ）
レーカ （やって来て、ガーボルの肩にもたれる）窓から投げ捨てたわね、ドアからもどってきたのよ。どうして私にこんなことするの、ガーボル？
ガーボル 君が僕を問い詰めるとき、僕の方は君に何をきけるだろう！そんなとき僕には「ごめんよ」としか言えないんだ。どこまで飛んだんだい？
レーカ 見えたでしょう。気が狂うまぎわまでよ。狂人ぎりぎりまで。知ってるわ、あそこであんたは子供時代をさまよっていて、私が老けてると思っていることも。
ガーボル 違う！違う！違う！老けてるのは僕の方さ、もう踊ることすら出来ないのを、君だって見たじゃないか。ずっと昔子供のダンスで、あれをなんて呼んだか覚えてるかい？あのしらみの踊りで、僕がものすごくとんだり跳ねたりしたのを？
レーカ もうこれ以上芝居は止しましょう、ガーボル。出て行かないで、吠えないで、芝居で私に求婚しないで。私をもう、お芝居で年寄りにさせないで。
ガーボル そもそも、君がこの芝居にこだわったんだぞ。
レーカ だって私が芝居から顔を出すと、吹雪が非難するように目に切りつけてくるのよ。そして私は今、どこに自分の居場所を探したらいいのかわからないの。どうしましょう、ガーボル？
ガーボル 芝居はおいておこうよ。
レーカ （すでに、再び芝居にとりつかれていて）でも最後にすっきりさせないままで残ったことがあったわね。
ガーボル 何だい？
レーカ あと何を、お母さんに言いたかったの？
ガーボル ええと・・・この家の娘さんが年頃なら、僕はすぐにも鳥に指輪をはめるってことさ。指を糸で計ったとき、僕はまだ産毛のヒナだったのは確かだけれど、指輪は合ってくれるとおもうよ。成長した分も計算に入れたから。
レーカ どうしましょう！今、証人はいないのよ！私たち、証人なしでそれをはめるの？
ガーボル 僕が一人二役で牧師さんにもなるよ。わが子たちよ。ゼテラキ・ガーボルとアールヴァイ・レーカは、今日のベツレヘムの日に婚約を交わしました、それによって、結婚の秘跡を果たすことを望んでおります。あなた方も、私の口述の証人になってください。たとえ古い小道を「大崩れ」の粉雪嵐が埋めても、求める者は相手を見出す。ゼテラキ・ガーボルとアールヴァイ・レーカは、これ以降われらの立会いのもとに互いに誓約を立てました。二人が互いのものであることを、そして永遠にそうなることを、われわれは誓いと共に証言いたします。アーメン。
レーカ （初めの輝きから畏怖の念に捕われて）これはもうお芝居じゃないの？牧師様、これはもうお芝居じゃありません。牧師様、懺悔したいことがあります。
ガーボル それはじき婚礼の前に。
レーカ 今です、今です！私の罪は一瞬ごとにふくれ上がるばかりで、その重荷で私は今日明日にも地に引き倒されてしまうでしょうから。
ガーボル 過去のことだ。充分じゃないか？君はまた新しい芝居に逃げ込むのかい？君の顔には畏れがある、君は芝居してるのか？僕は牧師なのかい？
レーカ 私の懺悔は神様にだけ申し上げます。
ガーボル じゃあ、言って！僕を君の神様だと思って言いなさい。
レーカ 私は神様ですら恐いんです。
ガーボル 何かしでかしたときには平気だったんだろう、なら今、少なくともそれを直視する勇気を持つんだな。
レーカ 一瞬だって、それを直視しないときはないのよ。ただあんただけは直視する勇気がないの。
ガーボル 言うんだ！でないと「大崩れ」が僕ら二人を埋葬してしまう位大きな声でわめくぞ。君の魂を、壁から壁へと飛びまわらせるんじゃない！
どんな罪にも名前があるんだ！その名を言うんだ！
レーカ 子供よ。
ガーボル 君らの子供か。
（長い沈黙。窓のコツコツいう音）
声 レーカ！俺の氷の鳥！レーカ！
ガーボル 何もかも漏らしたんだな！僕らの氷の鳥のことまで、奴に漏らしたんだな。僕が見つけたものを、奴に差し出したんだ。（壁から銃を外してぬぐう。装填してある）撃ち殺してやる。やつの次に君もだ！（窓の方に向かう）
レーカ ガーボル！子供一人の父親なのよ！ガーボル！みなし児たちの神様があんたに復讐なさるわ！
ガーボル 君はやつにまで同情するんだな。じゃあ、愛してやれ。生きてる限り、そして君の良心の耐えられる限り愛したらいい！（家から走り出る、レーカ後を追う）
レーカ ガーボル！ガーボル！あんたを愛してるわ！あんただけを愛しているのよ！（ガーボル亀裂の方に通じる小道に消える）愛してるわ、ガーボル。
（大きな白い崩落。窓はガチャガチャ音をたてて割れる）
ガーボル （遠くで声）レーカ！レーカ！僕の氷の鳥！
ボーディ （今や、着替えて家からとび出してくる）お前たち、何をしたんだ？
レーカ ガーボルが・・・それとアンタルが・・・二人であそこに行ったの！
ボーディ 永遠に、娘や。
レーカ いいえ！私が生きてる限りは、ガーボルを探すわ。来て、ヴェンツェルおじさん！来て！
ボーディ あの雪を取り除いてくれるほどの春はないんだよ。
レーカ 私にはそれだけの息があるわ！ガーボル！ガーボル！
（二人とも退場。氷の鳥のメロディー。舞台は空になる。氷柱が音楽を奏でる）
1 ハルギタ（ルーマニア語でハルギテ） ルーマニア、トランシルヴァニア地方にある山地。トランシルヴァニア盆地は三つの山脈にとり囲まれている。北西―南東方向に走る東カルパティア山脈、大きく湾曲して東西に走るトランシルヴァニア・アルプス、その西端でほぼ南北に走るアプセニ山地の三つである。そのうち東カルパティア山脈を形成する山地群の中で南西部内側に位置する長さ約６０ｋｍ、幅３０ｋｍの山地がハルギタである。最高峰はマダラシ・ハルギタ山で１８０１ｍ。
2 待降節 キリスト教の祭日。キリストの復活から数えて５０日目、聖母と使徒たちの上に天から聖霊が下り、福音を伝え広めよと命じる奇蹟が示された日で、この出来事を記念する日が待降節となった。
3 初演版 この版は、雑誌「ティサ地方」の一九八五年十二月号に掲載され、一九八六年の一月に国立劇場で初演された。
4 セーケイ人 主としてトランシルヴァニアの東部に居住する民族（ルーマニア国内のルーマニア人以外の少数民族は、マジャール（ハンガリー）人、セーケイ人、サース（ドイツ）人の３民族）その起源については、マジャール化したブルカール＝テュルク族など諸説あるが、十〜十三世紀に辺境防衛の任を帯びてトランシルヴァニアに入植した。
5聖アンタル パドヴァの聖人、聖アントニウスか？
6 チークショムヨー チーク地方は、東カルパティア山脈内のハルギタ山地の東側に位置する二つの盆地からなる区域で、中心地はチークセルダ（ルーマニア名はミエルクレアチウク）。住民の大部分はセーケイ人。チークショムヨーはこのチークセルダの郊外。
7 ゼテヴァールアヤ（ルーマニア名 sub cetate） ハルギタ山地の西側、チークセルダの南西約３２キロほどのところにある村。
8 「道に出て行くこともせん・・・」一族の結束を重んじるトランシルヴァニアでは、例えば一つの敷地内に同家族の何世代もが住んでいたりと大家族制で、よそ者と結婚したり一族の居住する地を離れたりするのは恥とみなされた。
9 「五月の木を立ててあげた〜」 いわゆるメイポール。東欧のカトリック圏で多く見られる風習。五月一日、若者たちが森へ行き、丈の高い、枝ぶりの良い木を選んで切り、意中の少女の家の窓の下にそれを立てて、意志表示をする。
10 キュキュロー ルーマニア名はティルナヴァ・マーレ川。