シュトー・アンドラーシュの劇のプローバからプレミエまで
1985年5月
シュトー・アンドラーシュはハンガリーで何日かを過ごした。彼には片付けるべき膨大な所用があり、そんな風に友人たちの手から手へと渡された、だがだから比較的落ち着いたある晩に国立劇場の来シーズンの演目計画に加わる新しい劇についての話が出るべきときとなった。−どうして出ないものか！−作家は集まった客人たちの椅子に、ベッドの隅に、長いすの背もたれの上に座る場所を捜した。彼の劇作品の中で今これこそ−とりあえずは「氷の鳥」として言及された−が、彼の心にとって一番大切なものであると感じさせながら。最新作だからか？最も不可思議なものだからか？おとぎ話から、バラッド（物語歌）から引き出されたものだからか？
部屋が小さいことが判明するやいなや、迎賓館の廊下の端で開いている友情あふれる一隅で−飛び去る三十分のための宴会場で−作劇上の会議が始まった。より正確にはこの話し合いは、一番困難なことにまさに作品そのものについてスタートしたのだ。大層な言葉は誰もが―演出のシーク・フェレンツ、作曲家のオルバーン・ジョルジ、アブロンツィー・ラースロー、チェレーニ・ラースロー、シュトー・アンドラーシュ自身、ドラマトゥルギー（この文章の筆者）、そして長時間短時間にかかわらず同席していた者たちの間で誰もが慎む―だがこの計画中の初演は、単に美しく重要なだけでなく、例外的に力を試される、多分新しい解決法を要求する課題だとわれわれ全員が感じている。希望、ご要望、意図、計画の大部分は質問として、提案として、考え抜かれたことが声に出され明らかな形になっていく。結局言語が流れ出るように、ある場面をめぐる、より強力な議論が展開している。それはマーリアの場面である。劇の開始時にわれわれは、ボーディ・ヴェンツェルを６年前一人娘が、恋人である、ある船乗りのために捨てたこと−そして生涯初めての、そして生涯一度の父のビンタを、今日に至るまで許していないことを知る。これらのことはボーディ・ヴェンツェルの言葉からも明らかになる、だがシュトー・アンドラーシュは−明らかになったように、後に友人の助言で−思い出の情景という形でこの出来事に生気を与えることが、自身の正義から和らぐことなく、最終的に遠ざかってしまうマーリアを一時的に舞台に上げることを、良しと見た。この場面は、第一部に適合していないように見える、不必要である。作者はこの意見を採用することに傾く、演出家はとりあえず四人の俳優の名前を挙げ、ドラマトルギーは鉛筆でマーリアの台詞をかすかに消した。
1985年夏
台詞はときには何週間も休止に向かい、ときには何日間もひたすらそれと格闘するしかない。フンテク・フリジェシ一家はマロシュヴァシャールヘイ（ル名トゥルグ・ムレシュ）の自宅にシュトー・アンドラーシュを訪ねる、彼らは心からのもてなしと分別ある解決にあずかり、旅をし、散歩し、「ハルギタの待降節」の世界を捜す。
1985／86のシーズンの開始時
劇場における煮詰まってはいないが、内容のある話会い。最も本質的な疑問点は一致していて、ほとんど幾つかの点にまとめることが出来る。
その先端が「雪だらけ」という舞台装置はどんな風になるか？「雪に覆われた壁、塔、雪の波・・・軒には数メートルもある氷柱」、そして目のくらむ岩石の亀裂、ほぼ雪の壁で覆われた「大崩れ」は結局はボーディ・ヴェンツェルの家までも押し流してしまうのか。バコー・ヨージェフは、材料について、その静止している状態について、技術について悩んでいる、背景の中に−雪をも連想させる−巨大なろうそくを、場合によっては様式化した墓標を計画している。
人々はどうなるべきか、出入りする群衆の役割は？（ボーディ・ヴェンツェルの家は、人のいるどの居住地からもともかく２時間はかかるところにあるのだ）
いかにしてリアル化と象徴の一致を得られるか？
おそらく最も油断のならぬ問題、シュトーは若き登場人物、ゼテラキ・ガーボルの奇蹟的復活の後少なくとも３ヶ月の時間の経過を指定している。聖夜に
奇蹟は起こり、そしてそれから春の訪れまで待つのか。最初の一言で４ヶ月待つのか？
そしてむろんマーリアの場面である。シーク・フェレンツも、アールヴァイ・レーカと小レーカの二重の役割を演じるクビク・アンナが、まさに単に記号化するやり方で、マーリアにも生気を与えるかどうか(両方のレーカもボーディ・ヴェンツェルの「娘に代わって娘」となることを望むことで、理由付けできる)考えている。最終的な決定はでないが、印刷に備えているプログラムには四人の俳優の名前が読める。
1985年10月
ＴＶ局はプローバの経過を捕らえたレポート番組を撮影することになる、各シーンの形成を週から週へ、シーク・フェレンツェ、コスチューム・デザイナーのシェッファー・ユーディット、その他大勢の後を（その仕事について尋ね探りながら）追いながら。これの興味深い点は、この番組が初演日に放送されることで、最後の２、３分に−（上演中の）−初日の終幕場面と喝采を映すだろうことである。
論議の的となる問題点の一つが決まる。マーリアのシーンはカットしない、この役はゲッツ・アンナが得る。
1985年10月14日火曜午前12時
読み合わせの日、ちょうど一年前から十日後に、シュトー・アンドラーシュはシカソーで劇の終わりにピリオドを打った。国立劇場における二重の興奮、すなわち今夜は「ユノとアヴォス」ですでによく知られた素晴らしいコムソモール一座が「オプティミストの悲劇」を客演する。かくて、おなじみの上品な 劇場の無秩序である。ゼテラキ・ダーニエルの初演者であるアガールディ・ガーボルの姿が見えない。テレビ屋たちは来ない、とりあえずソビエトの俳優たちをカメラの前に呼んでいるのである。読み合わせが始まる−読まなくとも、もし台詞の知識がまだなくても、この劇ではすでに誰もが打ち解けている。シーク・フェレンツはアラニ・ヤーノシュを引用する、この作品の多面性に、演技スタイルをつまずかせる諸要素に注意を促す、彼にとってこの一瞬は非常に真剣で重要であることは明白である、それでもやはりこの儀式は彼にとっていささか迷惑なのだ。大慌てで、誤解の犠牲者アガールディが到着する、大慌てでテレビ屋たちが到着する、彼らはすでに読み合わせの大部分を逃している。彼らのために繰り返さなくてはならない−これも劇場なのである。アラニの詩の数節が再び響く、だがその他の点では新しい、より幅広い方向での話し合いが進む。シンコーヴィッチ・イムレはシュトー・アンドラーシュの言葉の美しさに−だがむしろ「油断のならないこと」に思い悩んでいる。クビクは夢見心地で、ゲッツは控えめ、フンテクは緊張している。バコー・ヨージェフの舞台装置からは、完成した要素、雪山の家の素晴らしい模型。
ある心に刻み付けられる言葉。アガールディ・ガーボルの「私はこの役がとても怖い」。
1985年10月30日
演出の稽古は稽古用の舞台で行われる、少なからぬ協調の努力と共に−このためしばしば大声で−劇場の重要なレパートリーである、すでに完成した各劇をも試演してみること、新鮮さを取り戻すことが必要だからである。われわれの俳優たちは「連れて行かれる」
午前中はテレビ屋達が撮影し、午後は振り付け家のペショルヴァール・エルノーがクリスマスの民族行事を伝えるフィルムを上映する。分岐点となる重要な稽古日となるだろう。独特のエピソード、すなわち氷の棺の問題である。アールヴァイ・レーカは二十年前「ガーボル、ガーボル！！！」という叫び声で、彼女を去ったがそれでもやはり永遠の恋人、の上に雪山の襲来を呼び寄せてしまった。少年は二十年間どこか雪の下に横たわり、少女は−その間にガーボルの子ではない子供、小さなレーカを産みながらも−二十年間十の爪と息で探した。そしておとぎ話、バラッドは成就する、すなわちレーカはまずガーボルが投げ捨てた婚約指輪を発見し、やがてそこから二十才のままの恋人も発見する。シュトーの指定は「氷の棺は家に運び込まれる。人々は棺のまわりを取り囲み、膝まづく」氷の棺。言葉における運命。そして文章における運命。舞台上の氷の棺はどんなものになるのだろう？そして何より何でできているのか？後からは不可能と思えた、そのときはあれこれ悩んでまじめに考えたアイデアの数々は忘れ去られる。透き通った側面の箱。だめだ、溶けなくてはならないではないか。どこへ消し去るか？セロファンみたいな材料か。だめだ、チリチリ鳴る、すぐに蘇るはずの横たわる死者は一回転するのか？台詞から氷の棺という言葉は削除できないように、舞台では俳優の肉体だけが残り得ることが、徐々に確実になってくる。結局はわれわれが見たように、見よう。
われわれは現実性と現実のかなた、実際とそしてバラッドの関係の本質の中からおそらく今、最大のことを感じとっている。おそらく今こそ、シーク・フェレンツの中で以前はまだ迷っていた意図が一致する瞬間なのである、すなわち彼は演技空間の外と中という習慣を解放する。そしてこれに対してドラマトゥルギーは部分的に抵抗するのであるが、台詞の削除を思いとどまったように
（新しい空間知覚はまさに「叫び」の危険性を解釈するのをより困難にする、沸騰が不在のため停滞の繰り返しを起こす恐れがある）、彼は演出家のプランをそれ自体の規則に従って今後具体化することで同意する。
今日の稽古は一定の細かなことにも注意を促し、それらをおおむね訂正するのに成功する。ならばこの日記も正確になるように、すなわちゼテラキ・ガーボルは雪の下で二十四才のままである。
1985年11月
稽古は劇場のスケジュールに従って進む。シュトー・アンドラーシュがいてくれたら大きな助けになるであろうに、その代わりに手紙しか来ない、われわれが絶望したことに、辛らつなジョークで「憐れな劇作家に解決出来なかったことを、高貴なる国立劇場は解決してくれるだろう」とか何かそんなことを伝言してくる。
彼は台詞の中のある問題点を無条件に解決してくれる、すなわちあの３ヶ月を「消す」ことに成功する、劇を−題名とその魂にふさわしく−待降節にとどめておくことに成功する、すなわち復活シーンとこの悲劇はクリスマスに起こるのである。われらの信じるところでは、より完璧に、いっそう響き渡る苦痛とともにこう聞こえてくるのだ、これは「待つこと」の劇だと。ボーディ・ヴェンツェルは二六年間−いつも聖夜には新しいランプを燈しながら−娘を待っている。ゼテラキ・ダーニエルは−彼はかつてすでに自分自身も死から起き上がった−息子の復活を、そして息子が氷の鳥を、レーカを愛さなくなるのを待っている。若者たちは、相手の目を見つめながらお互いの中に自分自身を見いだしている。そして誰もが、外の世界が、「大崩れ」が最後には、どんな大声の言葉に対しても絶え間のない倒壊で脅かすことがなくなるようにと待っているのだ。
1985年12月9日
今までに指定された舞台装置の位置にだんだん完成品がやってくる。
初演の−すでに修正のあった−日付は12月20日である・・・（しかしこの遅れは他のとき他のやり方でも起きる・・・）上演はほとんど出来上がっている・・・それは大変素晴らしいのかもしれないが、良くないかもしれない、なぜなら十一日間「保持」しなくてはならないので。アガールディ・ガーボルについては何週間も前から、恐れるだけの理由があるように見えた、すなわち既に彼は本領を発揮しているのである。シンコーヴィッチ・イムレは、この劇を掲載した『ティサ地方』誌の十二月号でもつづったように、威厳を持って身を処している。クビク・アンナは爆発に備えている。フンテク・フリジェシはほとんど同様である。ゲッツ・アンナは二、三行の台詞を百度でも心をこめて言う。ナジ・アールパードは既におそらくはテープに記録してある狼の遠吠えと氷柱の鳴り響く音を夢に見ている、ボドナール・シャーンドルは疲れることも出来ずに劇団生たちを指導し、ハーイ・アンドレアはあらゆるちっぽけな修正を記録し、そしてシークのところにかかすことの出来ないハーブ・ティーを運ぶ。ゲネプロに、ドレス・リハーサルにすることが出来るだろう。
1985年12月12日
国立劇場の新聞のニュースで「ハルギタの待降節」の初日がもっと後に延期されたことが発表される。
1985年12月13〜20日
稽古はさらに続けられる、上演を完成した、そして「保存する」状態にもっていかなくてはならない、浮かび上がった(著者の権利上の)問題点は望むらくは解決する、そして（聞こえてくるように、四月に）初日となる。製作は達成されたが、すでにほとんど変化しない。演出家はみなに―劇の登場人物たちの言葉で言えば―祝福されたクリスマスを希望する。
1986年1月2日午前
すでに二，三日前にはっきりしたように、問題点は取り除かれた。午前中には（ドレス・リハーサルではないが）総げい古。うまくいき、よい雰囲気で−だがどれほどたくさんのことを訂正しなくてはならないか。まだあと２週間は必要だ・・・
1986年1月2日19時14分
国立劇場で−ここでシュトー・アンドラーシュの劇の初演が行われるのは3作目である−二部からなる「ハルギタの待降節」が舞台に上がる。
タルヤン・タマーシ（国立劇場ドラマトゥルギー）
（『批評』紙、86年4月号に掲載）