第四章　旅の途上「白馬」亭にて

 

　アルヴィンツィ・エドゥアルドをのせてポジョニ（現在のスロヴァキアの首都ブラチスラヴァ、１９１８年まではハンガリー領で歴代のハンガリー王たちがこの町で戴冠している）に向けて出発した緋色の郵便馬車は、晩にポジョニに到着した、そこではいくばくかのウィーンの空気を感じることが出来るのである・・・

　ポジョニまでひとりの小柄で生き生きとした、ヘンリー四世風の髭の、賭博の元締めのような外見の騎士モーティマーがお供していた、彼はあやしげな素性の、ポーランドとフランスの混血のフェンシングの先生で、アルヴィンツィ・エドゥアルドの随行者の中ではその健康管理の責任者だった。彼らは一日に何度かフォイル（先を丸めたフェンシングの剣）を打ち合わせて鳴り響かせた。アルヴィンツィは、泥棒騎士のように打ち合った、すなわち彼の目の注意力と警戒は、暗くした部屋で練習したボール投げのトレーニングで保たれていた。ついで四肢の若々しさを保つために彼らは四つんばいになってあちこちにかけまわった、最後にアルヴィンツィはもしそういう運命ならば袋かつぎをしてでもたつきを得ようと、隅に置いてあるハンガリー産小麦の詰まった袋を肩にほうりあげるのだった。

　道中何度か彼らは馬車の中でボール投げをした、だから騎士モーティマーはもちろん小さな隙間に腰掛けていた。やがてアルヴィンツィはセーチェニ・イシュトヴァーン[１]の小冊子（「世界」という題名だった）を取り出した、そして習慣通り二、三の覚書を本の余白に書き込んだ。セーチェニ・イシュトバーンこそ、その作品を読むだけの価値のある、最後の同時代作家であった。韻文はベルジェニ[２]で終わった、荒れ狂う無教養なセルビア人の百姓ペトローヴィッチ・シャーンドル[３]はすでにその卑賤の出ゆえにアルヴィンツィの詩人の理想像にはなり得なかった。

　エドゥアルドが本を下ろしたとき、モーティマーは相手を楽しませることを自分の務めだと思った。

　「国道をあんなに大勢の人間がうろついているのは残念ですね、狼たちには山から降りてくる勇気がない。旅行中に何発か撃ってみるのは害にはならないでしょうに」

　アルヴィンツィは目を閉じた。

　「そうだな」彼は疲れて答えた「自然の高貴なる野生動物たちがだんだん滅びていくのは文明の罪だ。イギリスの植民地アフリカでライオンを保護しているように、ハンガリーの野生動物たち、熊、狼が最終的に滅ぼされてしまわないよう法律を作らなくては。私の子供のころにはまだマートラ（ハンガリー北部のスロヴァキアとの国境付近の山岳地域の一角にあるハンガリーで一番高い山、１０１４メートル）の森林で真の猟師が山猫を待ち伏せしたものだ。いずれロヴィク・カーロイ[４]に、このことで「狩猟新聞」に記事を書くよう一言言っておこう。モーティマー、電報を打つのを忘れるな」

　アルヴィンツィは疲れてまぶたを下ろした、今日は公事についてはほぼ十分なことをした、もし誰もが一日一、二時間は祖国の運命について考えるという務めを果たすなら、ハンガリー人の問題を心配する必要はなかろうに。

　ポジョニでのアルヴィンツィは有史以来「白馬」亭という名の古い旅籠に宿泊する慣わ

しだった。彼はその町ではそれ以降新しい、モダンなホテルが建ったことを知らなかった。

彼はその旅籠の中庭に乗り入れるのが大好きで、開け放された廊下からいつなりと御者と

馬丁を厩(うまや)付近から呼び寄せることが出来るのが楽しみだった。

　「白馬」亭は時の経過によりすでに黒くなっていた、一度塗り直されるところだったとき、アルヴィンツィはそれならこの旅籠には来ないと物々しく断言したのだ。四角形の、大きな石油ランプが門の下で燃えていた、それにはペンキの赤いゴティック体の文字のドイツ語で「レストラン」と書いてあった。

　ビールとグヤーシュの臭いがアルヴィンツィの無気力になっていた神経を活気づけた。明かりの下では赤いチョッキ、短い白い髭、縞模様のズボンの一人の男が立っていた、彼はおばあちゃんのスカーフで作られた黄色い上っ張り姿でアルヴィンツィ・エドゥアルドを待っていたのだ。ハンガリーでのアルヴィンツィの秘書シルヴェステルだった、彼は出迎えのため前もって蒸気機関車に乗ってきたのだったが、そこらへんの事情に触れるのは勧められない。

　ポジョニでの冬の夜には中世の趣があった。大雪が町を覆い、そして「馬」の門の入り口の下では、古臭いジョーク集から抜け出てきたようなお供たちが立っていた。

　アルヴィンツィの昔の秘書で、真のシルヴェステルはそもそもすでに何年か前にブダで死んでいた、小シュヴァーブ山（ブダ側１２区１９４５年以降はサバチャーグ山、アレルギーや肺病等の児童総合療養所になっている）で、一枚の平べったい砂岩に疲れた気まぐれな頭を乗せて。しかし彼は長い秘書生活の間、前もってあるゼンプレーン県の公証人という後継者を手配していた、この秘書の交代によって主君に日常生活において何の障害も生じないよう、彼を長年教育し、育てあげて肉体的にも自分に似せるように形作った。新しいシルヴェステルは実際、アルヴィンツィ・エドゥアルドが、彼に仕える人々は彼自身と同様に永遠に生きるのだというあの昔ながらの信念を安心して強めたほど

生き写しに忠実に、古いシルヴェステルを模倣した（筆跡も、のみのような大きさの文字

も習得したし、内緒で詩も書いた）。

　赤いチョッキの秘書から（ハプスブルグ家のスペイン風のエチケットに従っているかのように）三歩ほどのところにワイン倉の亭主のような外見の、辛らつな表情の、灰色の、ハンガリー風のだぶだぶズボンとフロックコート姿の男が立っていた、いくばくかの収入に望みが持てるとき、地方の弁護士ないしは大使たちが浮かべたものだった、心を打たれ、感動した表情だった。

　この男はアルジという名前でしか知られていなかった、かつては他の名前もあったかもしれないが、時と共に忘れられてしまったのだった。

　彼はその職業によればアルヴィンツィの顧問弁護士だった、彼の外套のポケットはまるで書類棚をそっくり自分自身で運んでいるかのように訴訟書類でふくれていた。これらの書類は解決不可能な訴訟中の書類のように、すでにしわくちゃで黄色くなっていた。いくつかの訴訟はすでに三十年続いていた。しかしアルヴィンツィはその程度では投げ出さなかった。

　アルジは書類に注意していた。彼の意見によればもし一分でもそれから離れたら、敵は即刻この書類を盗むであろう。「少なくとも自分でこうしていれば」彼は、最大のすばらしいことについて語っているかのような楽しみをこめて一語ずつ発音しながら言った。

　アルジについてはスペンサーであれ、ショーペンエハウアーであれ、その叡智に私淑したとは推定し難かった。彼の意見によれば全ての問題の根源は、ハンガリーには読み書きの出来る人間が多いことだった。

　待ち受ける人々の列の最後にいたのはエニング夫人だった、雪のように白い髪、黒服のしなびた女性で、アルヴィンツィが馬車から降りてきたとき、市場でカモかアヒル相手にするように測ろうと黒い目で彼を見た。

　エニング夫人は有名な料理人だった。アルヴィンツィはかつて彼女を「馬」亭からロンドンにも連れていった、彼女は馬亭では彼のために雇われたのだったが。彼女の探るようなまなざしがアルヴィンツィの表情から食欲のほどを読み取った、その頭がうなずき、そして用事が済むのと同時に引っ込もうとしていた、しかしアルヴィンツィは彼女に向かって毛皮の指で親しげにうなずいた。

　「奥さん、具合はいかがかね？」

　エニング夫人はアルヴィンツィの手袋に口付けした。

　「ああ、私はもう食べ物の臭いだけでお腹いっぱいになってしまいます。胃の具合がひどく悪いのです」

彼女は貴族の令嬢たちのように、膝をついた（なんとエニング夫人はかつてサトマールの修道女たちのもとに通ったのだった）

　「十五分後には子豚肉のスープを作りましょう、旦那さま」

　「願わくは、レヴァーを省かないでくれ」アルヴィンツィはもったいぶって言った。

　エニング夫人は返事の代わりに天に目を向けた。どうしてこのような条件をつけることが出来るのだろう！

　この「馬」亭で、ハンガリー人の家来たちの間で、アルヴィンツィは自分が長い外国の旅から帰国した王であるかのように感じていた。サーカスのお仕着せを身につけた召使たちはロウソクを狭い石の階段でかかげていた（「サービス料百フォリント」と「馬」亭の会計係のボーイ、クラウス氏は書いた）。アルヴィンツィは「独り身」なので身の回りの女の召使ががまんならなかった、小間使いたちは彼が不在のときしか彼の部屋には入れなかった。

　アルジが一通の封筒を、公証人たちが最重要な公文書を扱うときのような大変な注意をはらって差し出した。

　「中に砂が入っています。ジチ[５]の探検隊がアジアからもってきたものです、御前のご先祖たちが首長でいらしたあの地方からです」アルジは祭壇の前の老いたヴェスプレム（

ハンガリー西部の都市、昔は司教管轄権区だった）の司教会員のような鳴り響く声で言った。

　アルヴィンツィは茶褐色の砂から幾分かを手の平にのせた。長々と見つめた。

　「聖地だ！」彼は言った、そして封筒を聖遺物の間に置くようにとシルヴェステルに渡した。

　「現在ブダの副王[６]は一体誰だ？」彼は三つの毛皮を別々に脱ぐ間、あくびしながらたずねた。

　「バーンフィ[７]です、御前、エルディのバーンフィです」シルヴェステルは答えた、そして何よりも喜んで役に立ちたいと毛皮の一つをひっつかみたかったところだろうが、アルヴィンツィは頑強に抵抗した。

　「シルヴェステル、お前が召使の仕事をするのは好かんな」彼はうなるように言ったが、実際秘書はあきらめず、ぜいたくに動物のにこ毛で飾られたフェルト靴を脱ぐとき幾分かの役割にありついたのだった（アルヴィンツィはあきらめてあくびしていた）

　「願わくは、副王と問題が生じなければよいのだが・・・」

　アルジはコートのすその下から肉厚の、毛深い手を取り出した、その中でアルヴィンツィの敵の息の根をとめるのだ

　「強圧的な坊主です・・・」

　「あのエルディ人たちはな」アルヴィンツィはぶつぶつ言ったが、最後までは言わなかった、誰にわかろう、おそらく副王はスパイたちを使っているのだ・・・

　「そしてあの父親の方のティサ[８]はまだ生きているのか？」

　「ドアの金具みたいにくたばりました」シルヴェステル氏が報告した。

　アルジは敬虔にこの若い秘書の言葉を訂正した。

　「亡くなりました」

　「悪い相手ではなかった」アルヴィンツィはぶつぶつ言った。

　それから特別な型のフロック・コートを身につけた、フランス革命時の五執政官政府のもとでパリの紳士たちが着たようなものだった。彼は服の内側に香料を～干草の香りを～振りかけた、そして二本の指を洗面器につけた。彼は丸天井の部屋で厳かにそしてリズミカルに動いた、そこでは二日間というものブナの木の根と枝とで暖房がなされ、それらはメキメキという音とともにタイルの暖炉で燃えていた。

　「よければ晩餐に出かけるとするか」アルヴィンツィはそう言うと、クロテンの毛皮を肩にかけた。

　サーカスの召使たちが再び「白馬」亭の壁の中から進み出て、身じろぎもせずにロウソクをかかげた。アルヴィンツィはまるで忠実な秘書に声をかけようというかのように階段で立ち止まったのだが、いずれの場合も思いとどまるのだった。

　特別室ではテーブルに昔の食器類が整えられていた（いずれ再びクラウス氏は「サービス料～」と書くだろう）、テーブルは勿忘草の陶器とダマスク織のテーブル掛けとで満たされ、アルヴィンツィはその中央に席をとる一方、その左右からシルヴェステルとアルジ氏らが腰を下ろした。モーティマーは、アルヴィンツィの筋肉のしなやかさを常に目で追えるように、差し向かいに腰をおろした。

　テーブルにはまだ二組の空の食器があった。

　ポジョニの「馬」亭では、アルヴィンツィのテーブルには二人分多くセットされるのが常だった、この儀式は二人の淑女へ敬意を表するためのものだった、彼女らはこれより少し前に（二十年前に）ある宴会でアルヴィンツィの客人だったのだ。彼女らについては後で触れよう。今はエニング夫人がひんぱんに許しを乞いながら微笑みつつ部屋に出入りしていた、－これとてポジョニ滞在の日々の特別なことの一つだった。

　「イザベラ伯爵夫人の時代のように、ポーランドのスープも作ってみました」彼女は熱心にささやいた。

　アルヴィンツィは心を動かされてうなずいた、白髪のくたびれた顔の老ボーイたちがキッドの手袋でチューリップの替え皿を運んで来た。

　アルヴィンツィはまず多くの中から一個のクリスタルの杯についだ。フェレンツ・ヨージェフのマード（ハンガリー北部ゼンプレーン県の山岳地域にある、ワインの生産地）のワイン倉から出た星五つのトカイがその古いグラスの中にあった。

　「一杯めは、祖国のために」アルヴィンツィは言って、グラスを飲み干した。

　スープのあとは、古いドイツの食器でビールが供された、とはいっても誰も飲まなかった。（真のハンガリーの上流階級はその頃はまだビールを飲まなかった）

　グラスの世話はこれ以後は赤いズボン、黄金のドルマン姿（胸に飾り紐のついたハンガリーの騎兵服）の軽騎兵が受け持った、彼は拍車の音を立てないようにしながら紳士たちの背後を行ったりきたりして、バダチョニのワイン（バラトン湖周辺、北部のワインの生産地）、セレドニェ（現在のウクライナ領sredneje、山岳地帯でワインの生産地）の黄金、そして重厚なサモロドニ（トカイ・サモロドニ、トカイ・アスーのような貴腐葡萄と普通の葡萄を混ぜて醸造される）を注いだ、最後にダブルのポメリー（仏の有名シャンパン）がクリスタル・グラスの中で白っぽい、すっぱそうな泡の中で現れるまでには、ムートン・ロートシルト（仏ボルドー地方の一級シャトー、赤ワインで有名）と「法王の血」が列に続いた。

　しかしわれわれは食べ物を忘れまい、アルヴィンツィの客人たちはそれに合わせてこれらの様々な飲み物を、最もふさわしいエチケットにしたがって消費したのだった。

　アルヴィンツィ方の訴訟のリーダーたるアルジは、以前はゼンプレーン王城県の弁護士だった、そして地方の上流階級の食卓で十分に口を、そして飲み物、食べ物でピカピカ光る口ひげをぬぐっていた。彼は鈍いどよめきと共に台所の方から運ばれた、替えの皿を受けとった。

　「子豚だ」彼は言った「小さな縮れ毛の子豚だ」

　それ以上の注釈はなかった、彼は即刻鼻を皿に押し込んだからである。レモンとヨーグルト味のスープの中の子豚の足、しっぽ、レバーと脾臓が大きな喜びをもたらした。専門家ならわかったろうが、（かつてハンガリー料理でスープが占めていた）あれほど重要で指導的な役割を占めた料理に欠けているものは何一つとしてなかった。（残念ながら、アルヴィンツィの旅行以降、時代が変わった、スープはハンガリーの食卓ではますますその重要な役割を失っていった、主婦たちは節約している）。もはや流行ではないのだ、すなわち、自家製のグヤーシュ・スープ（テンダーロイン肉から作った！）によりその魅力を漏らすのだ。とはいえハンガリーではスープ抜きではいかなる夕食も決して始まらなかったのだ。あひる、ブタ、牛肉から作った忘れがたいスープがあった、そしてスープを作る婦人は遠くの町から連れてこられたのだった。骨、野菜、調味料の量は、それすなわち膨大な学問だった。この国では最高のスープはフェレンツ・ヨージェフのために作られた。その次がアルヴィンツィ・エドゥアルドのためにだった）

　今や魚の独特な皿が視界に姿を現した。

　アルジはまだ口ひげからスープの残留物を繰り返しぬぐっていた、一本の小さな骨をナプキンから取り戻した、そして、魚が突然現れたとき、パプリカをふったパンのかけらをつまんでいた。冷たいウナギだった。

　法律顧問は心配そうな表情をした。

　「一体全体魚に煮こごりをかける間、ちゃんとかき混ぜていたのかね？」

　ウナギは沈黙していた、凍っていたからである。

　アルジは魚に話しかけている間、悲しそうに頭を振った。しかしその目は徐々に丸く見開かれ、彼は満足してフンフンつぶやいた。やがてそっと、ほとんど自分自身に言った。

　「この魚は泳ぎたいんだな」

　このとき軽騎兵がワインのソーダ水割りを弁護士に注いだ、彼はそれを一干しにした。（アルジには、食事中は常に同じような軽い大平原のワインをソーダ水と共に飲んでよいという特権があった、彼の意見によれば咽頭とその他の内臓にはこれが一番ためになるからである。明るい緑のワインを温泉の水のビンに注いで供した。彼が軽い大平原のワインをあきらめるのはフランスのシャンパンのためだけだった）

　今やテーブルにチーズプディングが現れた。

　アルジは一本の巨大なつまようじを口にくわえていた。彼は常につまようじを個人的に買っていた、モミの木から作られたやわらかい爪楊枝にガマン出来なかったからである。彼は固い木の信奉者だった、それで彼は巨大な歯の間にヤリのように突き刺すのだった。彼のフロック・コートの後ろ側のポケットには常に一包みの爪楊枝、一箱の胃薬とティッシュ・ペーパーがあった、それでしか鼻を拭くことが出来なかったからである。

　彼は予審判事式にプディングに呼びかけた。

　「被告人、一時間閉じ込められていたかね？」

　こんなときは料理が紳士たちの気に入るかどうかと秘かにうかがっていたエニング夫人が、隠れ場所から大声で叫んだ。

　「私が自分で蒸したんですよ」

　「ならけっこう」アルジは答えた。

　アルヴィンツィは隠れ場所に向かって非難の一瞥を投げた。召使たちは敬意を払うべきなのである。

　「女料理人の場所は台所だ」彼はぶつぶつと言った。

　チーズ料理の後、弁護士はしかるべく温めたワインを二杯の杯で飲み干した、一方アルヴィンツィはアビニョンで製造され、ある英国の卿のワイン蔵から出た指貫ほどの量の赤ワインで乾きを癒した。

　今やキジが赤ワインをたらして、焼いたクリの卵の間に飛び込んできた。

　「鳥とは！」アルジはブツブツ不平を言った「鳥なんてまともじゃないぞ」

　キジの後では法律顧問は危うく爪楊枝を噛み砕くところだった。彼は食という場における冗談はきらいだった。

　しかしとうとう夕食の王、パイ皮に包まれた腎臓(キドニー)のついた腰部の焼肉が登場した、かつ

て一番文句のつけようのない女料理人がゲルゲーニ（ルーマニア北東部の東カルパティア山脈の一部ゲオルゲニ山地）の狩猟におけるル

ドルフのために焼いたように。大平原の日差しの中では太った白い子牛たちを見ることが

出来る、それらの肉はウィーンへ運ばれる。ケルントナー通りの帝国最高の牛肉を食べさせる建物へとスープ肉の愛好家をペストからウィーンへと運ぶ汽車が、ポジョニでは一度ならず一分間停車したのだ。

　「これぞ男のための料理だ」法律家はさけび、無我夢中でナイフを皿の裏で砥いだ「ただパイ皮が三段になってるかどうかはわからないな」

　やがて彼はサラダを視野に入れたー彼はそれにあわせてサラダを消化するほどにはキジを褒めなかった。彼はタルタルソースを注いだ豆サラダを生き生きとして歓迎した、エストラゴンと混ぜ合わせた緑色のレタスにはうなずいた、一方キャベツを詰めたパプリカには疲れ果てて「一体全体二度茹でたのかね？」とたずねた。

　この後アルジに夕食恒例の事故が起きた。

　彼はテーブルの端にある、あの小さなイチゴ大の大きさのパプリカのピクルスに気がついた、それは内部の炎によってほとんど赤くなるのである。弁護士は、この行為の結果が前もってよくわかっていた、一大決心とともに一番真っ赤っかに見えるパプリカに噛み付いた。ただちにアルジが席を占めている場所から、絶望のあえぎとセキが響いた。彼は涙をこぼし、しかめつらになり、主婦エニング夫人の学問の犠牲として幸せな証人として、数分の間無言で痛ましい苦痛の中を椅子の上でてんてんとしていた。これによって彼自身に関する限りそもそも夕食は終わったのだった。彼はさらにいくつかのドーナツも得た、カレンダーがカーニバルであることを示していたからである、そしてパプリカでの無教養な自分のふるまいに落ち込みながらあのヤギのチーズも試食した。アルヴィンツィがフランス・ワインで巨大な杯を満たしているとき、そして全ての出席者が杯を彼の大杯と打ち合わせるのを許している間。

　「美しい女性たちのために」彼は常になく生き生きとして言った。

　彼は五十年来常にこんな風にふるまってきたのだった。

　ブラック・コーヒーとさまざまなパーリンカを幾つかの英国製品のチェリー・ブランデーとハンガリーのサワー・チェリー・リキュールとケチュケメートのアプリコット・ブランデーの仲間に加え、宴は終わりを迎えた。

　アルヴィンツィは翌日の日中、緋色の郵便馬車に馬をつけるよう命じた、だがポジョニを去る前に、セントヴェール通りのある古めかしい黄色い家に住んでいた、あの思い出の伯爵夫人を訪問したのである。