「ミラクル・マンダリン − 驚異の宦官（パントマイム・グロテスク）」（1917年）
Lengyel Menyihért: "A csodálatos mandarin - Pantomime grotesque"
in Lengyel Menyihért: TAIFUN, 1984, Budapest.
レンジェル・メニヘールト作/三苫民雄訳
【登場人物】
ミミ［少女／若い女］
年老いた伊達男
小［中］学生
宦官
ごろつき１
ごろつき２
ごろつき３
【情景】
二階［以上］の部屋−ぼろぼろの風変わりな内装。はがれた壁紙−暗い壁。妙にぐらつく家具−部屋の四隅にはがらくた−無用の物の数々−まるでつぶれた古物商の中のよう。要するに、部屋は三人のごろつきの隠れ家で、ごろつきは盗んだ調度品をここに運びこんできているのである。
舞台奥にはドア−その左右に窓。遠くの照明や街灯の揺れる光、独特の方々に行き交う叫び声からなる大都市の生活と喧騒が部屋の中に入り込んでくる。
1.
ミミと三人のごろつき。ごろつき１は手足を伸ばしてベッドに横たわっている。ごろつき２は部屋の中央でミミと口論している。ごろつき２には金がない。自分の両ポケットを裏返す−空っぽ。ごろつき３はやっきになって机やたんすの引き出しを探す−何も見つからない。ごろつき３もミミに迫る。ミミは肩をすくめる。なぜごろつきたちは彼女を苦しめているのだろうか。彼女に何を求めているのだろうか。彼女は何もできないし、役に立つこともできない。
そのときごろつき１がベッドに身を起こす。ごろつき１は大柄で暗い顔つきの、望みを失った粗野な若者。彼はよろめきながら立ち上がり、ミミの方に歩み寄る。ミミの腕をつかまえる−自分の前に引き寄せる。「金はないのか−探せ」−ミミは驚いて拒む：私に何をしろというの？ ごろつき１：おまえは窓際に立ち−自分の姿を見せ−誰かを誘え−それから俺たち三人がそいつを襲う。
他の二人も承知する。ミミは拒む。三人のこぶしがミミの顔の前に突きつけられる。ごろつき１がミミを乱暴に窓の方に連れて行く。それから三人のごろつきは急いで打ち合わせをする：隠れることにしよう。一人は食卓の下に、二人目はたんすの陰に、三人目はベッドの下に。実行。待機。
2.窓辺のミミ。外を見つめる−手招きをし−目配せする−微笑みかける。成果なし。だが、突然ミミはびっくりする。ぎこちなく後ろを振り返る。三人のごろつきが首を伸ばす：何かあったか？ ミミはうなずく。三人は再び首を引っ込める。待機。階段をゆっくりした足音が響く。ミミは部屋の中央へと後ずさりする−始終ドアの方を見ながら、ドアが開いて入ってくる−年老いた伊達男。
奇妙な小柄の老人で、くたびれた皺だらけの顔だが、口ひげをピンと生やし、頭にはシルクハット。老人のコートは何度もアイロンがかけられてテカテカに光っている−偽物臭いゲートル、足には壊れたエナメル靴、汚れた襟、安物の派手なネクタイ、ボタンの穴にはドライフラワー。
老人は微笑みながら入ってくる−伊達男の確信とともに−二三歩歩いて立ち止まる−頭のてっぺんから爪先までミミを見つめる−ミミに魅かれる。老人はシルクハットをとる−それをテーブルの上に置き（頭には苦労して徹底的に櫛を入れ、染められた髪が撫でつけられている）、そしてその間にも少女を吟味しつつ、汚れた手袋を外し始める。ミミは立っている−待っている。
今や老人は少女の方に歩み寄り、そして手を伸ばす−彼女を抱こうとする。ミミは後ずさりする−何か尋ねたそうに老人を見つめ、そして親指と人差し指を刷り合わせて聞く：お金は？
老人は手を横に振る−微笑む：お金？ そんなものは重要じゃない。愛がすべてだ。老人は手を胸にあてる−求愛のポーズをとる−少女の腕と顔ををつかまえたとたんに図々しくなる−憤るミミだがほとんど抵抗できない。そのとき三人のごろつきが飛び出す−老いた伊達男に襲いかかる−三人はテーブルからドアにかけて並んで立つ−次々と老人を投げ渡し、最後にドアから投げ飛ばし、老人は転がり落ちる。そのあとからシルクハットが投げられる−固い帽子が階段をコンコンと転がり落ちていくのがまだ聞こえる。
部屋では大きな憤り。彼らは老人をあざ笑う−老人の愛の告白を真似る。ごろつき１は再び脅迫しながらミミの前に立つ：もっとうまくやれ。言ってるだろう！ 彼女は再び窓の方へと押しやられる−ごろつきたち三人はまた隠れる。窓辺のミミ−前と同じゲーム−体を揺り動かし媚態を示す−売笑の連続的で力強い下品な音楽、それが突然心地よくデリケートな子供っぽいものとなる。というのも・・・
3.
ミミが通りに誰かを見つけたからである。窓から身を乗り出す。手招きする。微笑む。そして振り返る−喜んで拍手する−陽気で身軽に階段を駆け上ってくる−ドアが勢いよく開く。そこに立っているのは小学生。
バラ色の頬、金髪、幅広に結んだネクタイ−革靴［普通の短いタイプのもの］−半ズボン。ここまで駆け上がってきた−しかし今突然立ち止まる−何から始めたらよいのかわからない−息を切らしている−顔を真っ赤にして目を伏せている。
ミミは微笑みながら少年を見つめる：可愛い坊や！
少年も困ったような笑顔でミミをちらりと見る。
ミミは手招きをする：こちらへおいでよ。
少年は怖がりながらも近付く。
ミミ：さあおいで、坊や。彼の手を握る：なんてきれいな手でしょう。ミミは少年の頬を撫でる：なんて見事なバラ色だこと！ 頭を撫でる：きれいな金髪！ もっと近くに少年を引き寄せ彼の頬を軽く叩く：可愛い子ね、ボク。そして、なんて愛らしく、そして、なんて清らかなの−恍惚としながら少年を上から下までくまなく見つめる−小学生は困惑したようす、不器用で可憐。
このときミミは気がつく。そういえばこの子は哀れな生贄になるんだわ−この子が何か持ってないか調べなきゃ。ミミは彼を抱き寄せ、急いで調べる−手を見る：指輪はしていない−チョッキのポケット：時計も持ってない−コートの両ポケットを調べる：一方からはハンカチが一枚だけ出てくる−他方からは香水。ミミは香りを嗅ぐ−投げ捨てる：いくらにもならないわ！ 腹を立てながら：ところでボクお金全然持ってないの？ 小学生は悲しそうに、いいえと手を振る。ミミは後ろを向く。希望をなくし、がっかりし、困り果てて、さあ、もう出てお行きなさい−そのときミミは少年を大変不憫に思う：可哀想に！さあ君、ちょっとこちらにいらっしゃい−だからってふさぎこむことはないのよ。まあ、なんて幼いこと、それに震えてもいるのね−いらっしゃい−
ミミは少年を抱きしめ、撫で、口づけし、戯れに耳を引っ張り、頬を叩く。少年は不器用に彼女の腰に手を回し、それから二人は静かにゆっくりとワルツを踊り始める−二人の動きはどちらもより自由になっていく−頬は紅潮し、二人の頭はより近付いていく−二人の心の中に愛が奏でられ始め、音楽はしだいにより甘美なものとなっていく−二人は止まる−二人は声を立てて笑いながら互いに見つめ合う−キス−
ところがこのとき、それまでこの成り行きを腹を立てながら眺めていた三人のごろつきが飛び出してくる−ごろつきは二人を引き離す−少年は抵抗する−だが、どうして少年がこの三人の荒くれどもにかなうだろう−ごろつきたちは少年をドアの外に投げ飛ばす。少年は消え去るが、階段や中庭そして通りの喧騒の中に至ってもまだ長い間かすかな泣き声が聞こえてくる。
部屋ではごろつきたちがミミに向かって激しく怒っている。ミミは少年に未練がある−泣く。ごろつきたちはミミをあざ笑う：やつにはこいつが必要なのだとさ、−このちっぽけなろくでなしがさ。やつには愛が必要なのさ。それでもまだミミはまだ少年に未練がある−少年を思って泣く。
ごろつき１がナイフを抜き、ミミを脅す：気をつけろよ−お前を刺すからな！おまえがもしもまともにやらないのなら、もっと利口にならないのなら、そのときがおまえの最期だ！ 窓へ行け！
ミミは震えながら言われたことに従う。三人のごろつきはまた身を隠す。
まだ泣いている子供の悲しそうな声がかすかに聞こえている。そして、ミミが窓辺で媚態を示すとすぐに再び売笑の、扇情的な旋律。その旋律はしだいに昂まり、そして突然力強くて香気ある、異国情緒を帯びたものとなる−
4.
ミミは窓辺でびくりとする−驚いたのである。後ずさりする。ごろつきたちは首を伸ばして聞く：何だ？ ミミは驚き、途方に暮れて部屋の真ん中に立つ。ごろつきたちはミミを追い立て、思い切って行ってこいという：窓へ行け−窓へ！ ミミはおびえながらもう一度窓辺へ歩み寄る−異国風の音楽がしだいに昂まり、階段をミシッ、ミシッと上ってくる音、ミミはじっとドアを見つめつつ、震えながらテーブルのところまで引っ込む−ドアが開き、そしてドアの上り段のところに宦官が立っている。
中国人。太った黄色い顔−凝視する切れ長の目。その目は驚いているわけではなく、ただ刺すように、魚のようにじっとまっすぐ見つめている。頭には絹の帽子。その帽子の下から黒くて長い辮髪が下がっている。みっしりときらびやかな刺繍の施された幅広の黄色い上衣、黒いビロードのズボンにすこぶる上品な靴。
宦官の首には幾重にも巻かれた金の鎖。上衣のボタンはきらめいており、繊細な指は宝石類でいっぱいである。
宦官はドアの上り段のところに佇み、そして驚くこともなく目を凝らし、死ぬほど真剣に少女を見つめている。
ミミは宦官を怖がり、後ずさりする。だが、どこへ行くにしても、テーブルであれ、たんすであれ、ベッドであれ、潜んでいるごろつきがミミを宦官の方へと押しやり、突きやりする。とうとうミミは覚悟を決めて、おそるおそる上り段のところに佇む宦官の方へと近付いていく。ミミはおびえながら宦官を呼ぶ：もっと近くにいらっしゃいませ。宦官は動かない。ミミはもう一度呼びかける。宦官は動き出す。機械のような足取りで、ゆっくりと部屋の真ん中にやって来る。ミミは椅子を指し示す：おかけ下さい。宦官は座る。だが、彼女からかたときも目を離さない−死ぬほど真剣に、そして顔の筋肉を少しも動かすことなく、少女を見つめ続ける。
ついに何かをしなければならなくなり、ミミは不器用ながら戯れに演じ始める。さらさらと衣ずれの音を立て、宦官の前で踊り出す−媚態を作る。部屋の中をワルツを踊りながら回り、踊りの途中でドアのところに至る−突然ドアの鍵を閉める−なおもミミは踊り続ける。宦官はミミを見つめる−驚きもせず−死ぬほど真剣に。ミミはしだいにテンポを上げ、もはやより大胆で自由に踊りだす。そしてミミが一回転して宦官の前に至ったとき、中国人の奇妙な堅苦しさ、凝固した様子が目に入る−ミミは笑い出す−しだいに激しく笑い出し、そして踊りのためにめまいが起こり、笑いながらふらついて、動かない宦官の腕の中に倒れ込む。
笑う女が目前で身を横たえ、身をよじり、かがめたりすると、宦官にはゆっくりと奇妙な変化が生じてくる。かすかな身震いが宦官の足先から頭のてっぺんまで走り抜ける。宦官の頬は紅潮する。それまで凝視していた目は動き出し、そのときからより頻繁にまばたきをし始める。宦官は胸を突き出し−苦しそうに断続的に息をし始める。宦官の手は縮こまり、指はせわしない調子で少女の首や頭をさまよう・・・宦官の興奮はしだいに昂まっていく。宦官に細かな反応が見られるようになる−縮こまる−震える−そして突然体中を音を立てて流れる、煮えたぎらんばかりの血の流れにより、宦官の全身が震え始める。ミミはこれをじっと見ている−驚く−笑いが止まる−飛び起きる−後ずさりする。
宦官も立ち上がる。手を伸ばしてミミの後を追い始める。ミミは逃げる−宦官がその後を追う−目は彼女を凝視しながら−顔は歪み、哀願している表情。まるで病気の動物のように。
追跡が始まる・・・ミミはテーブルと椅子の間を走り抜ける−その後を宦官・・・ジャンプする−ミミに追いつく−宦官は倒れる・・・床に倒れながら走るミミのくるぶしをつかまえる・・・ミミは振り切る−宦官は飛び起きる−不器用さと重苦しさが取れてくる−しばし休む−しだいに身軽になる−この上なく敏捷で、はなはだしくグロテスクになる−このときもはや宦官の方から媚態を作り、奇抜な動きで踊り出す−そして独特のしゃがれ声が喉から溢れ出る−ミミはますます宦官が怖くなる−逃げ出す−宦官が後を追う−お金をジャラジャラいわせ、むしゃぶりつくような動きをしてミミに追いつく−まさに手が届こうとする−ミミはその手をすり抜ける−宦官は声をあげて泣く、涙が頬を流れ落ち、自ら全身をを揺らす−回転し、旋回する。しだいに恐るべき速さになる。もはやまるで一個の巨大な独楽のように−宦官の回りには風が起こる−黄色い上衣と辮髪は宙に弧を描く−宦官から逃れられることはできない−宦官はミミをとらえる。そして、喉からすさまじい至福の声を上げながら、ミミとともに床に倒れ込む・・・
このとき三人のごろつきが飛び出す。彼らは宦官に突進する−宦官を押えつける−ミミは解き放たれる。宦官のポケットが探られる−金製品が音を立ててこぼれ落ち床に広がる−首からは長い金の鎖が取り外され、指からは指輪が抜き取られる−これらのことはあっという間に行なわれる−、そして、身ぐるみ剥いだ後、一瞬宦官に目をやり、ごろつきたちは決心する：殺そう。荷物のように宦官をつかみ、ベッドに放り投げ、枕や羽根布団、敷き布団、ぼろきれの類を宦官に投げつける。そして、三人はそのたくさんの覆いの上から宦官を窒息させようとして、一斉にその上にのしかかり押えつける。静止。三人は互いに目くばせをする：殺った。ミミはテーブルのかたわらに震えながら立っている。しばし間があく。ごろつきたちはほっとしてため息をつく。終了。
するとそのとき宦官の青ざめた黄色い顔が覆いの下から出てくる。
顔は−ぎょろついた目を凝らして−ミミを見ている。
三人のごろつきは驚く。宦官は死んでいなかった。三人で集まる：やつにとどめを刺そう。
三人はベッドから覆いを取り払う−そして宦官を引きずり出す。宦官の足が地面に届くやいなや、宦官はジャンプする−まるで奇妙なボールのように、そしてミミに向かって突進する。
宦官は取り押さえられる−ミミをつかまえる前に。宦官は後ろ手に取られる−強く押えつけられる。宦官は−自分に何が起こっているか、自分が何をされているかにまったく関心がないかのように−ミミだけを見つめている−凝視している。すさまじい内部の炎で燃え盛る二本の松明のように。
ごろつき３が、血で汚れ、錆びた長いナイフを取り出す。他の二人に宦官を強く抑えておくようにと目で合図を送る。そして、その長いナイフとともに宦官目がけて突進する。 ナイフは宦官の腹に柄のところまで刺さる。
皮膚が裂け−宦官の体はうめき声を上げる−ナイフの刃先が宦官の背中から突き出てくる。
ごろつきたちは宦官を押さえる手をゆるめる。宦官が倒れようとするのを見つめる−もう死んだはずだ。
宦官はよろめく−さまよう−しばし揺れ動く−もはやほとんど倒れそうになる−（ごろつきたちは期待して見つめる）−そのとたん、再び宦官はバランスを取り戻す−ジャンプする−ミミに向かう。
ミミは悲鳴を上げて逃げる。
ごろつきたちは再び宦官を取り押さえる。彼らも驚き−ぞっとしている−だからこそ今や直ちに宦官の息の根を止めなければならない。
ごろつきの一人が旧式の大きなピストルを取り出す。宦官の頭に狙いを定める−引き金を引く。銃声。煙。ごろつきたちは宦官のそばから飛んで離れる。煙がひく。宦官の額には黒く焦げた銃痕−弾が貫通したときのもの。宦官はよろめく−体が前後に揺れる−、その後動き出し、再びミミへと向かう。
宦官はグロテスクなジャンプをしながらミミを追い始める。
宦官は捕まえられる。組み伏せられる。
なんてことだ。死んでない。
どうしたらいい？
殺るしかない−殺るしかない−殺るしかない！
でもどうやって？
一人がシャンデリアを指し示す。
彼らはそこに吊し首にしようとする。
三人は宦官を椅子の上に立たせる。辮髪を宦官の首に巻きつける。そしてそのとき一人のごろつきが−テーブルの上に立ち−宦官の首を巻いた辮髪の先をシャンデリアに結わえつける。三人は宦官の立っている椅子を蹴る。宦官は吊し首にされる。
シャンデリアの明かりが消える。
暗闇。
静寂。
三人のごろつきと少女は暗闇で一緒に集まり耳を澄ます。
するとそのとたん、天井に奇妙な青白い光。
宦官の仏像のような丸い腹が、宙に浮く奇妙な玉のように−光を放ち始める。
そして、その神秘的な光が、辮髪を首に巻かれて吊されている宦官の全身を照らす−大きくて、黄色い、丸い顔と凝視し続ける目を照らす。その目は執拗に、すさまじい欲望をともなって、二つのサーチライトのようにミミを照らし出す。
ごろつきたちはぞっとして、小刻みに震えながら隠れる−逃げる、ベッドの下に這って行き、身を隠す。
ミミは部屋の真ん中に取り残される。
宦官の方を見つめる。
今初めて−勇気を持って−そして微笑む。
ミミは一人のごろつきに合図をする：こっちにおいで。そして、ごろつきが出て来たがらないと、そこまで行って彼を引きずり出す：私のためにあの宦官を降ろしあげてよ。
ごろつきは手を伸ばそうともしない。
ミミはさらに根気強く説得し、ごろつきの手にナイフを渡す：降ろしてほしいの！
ごろつきはようやく震えながらテーブルに上り、ナイフで辮髪を切る。
宦官は床に落ちる。
だがまた飛び起きる−そしてミミに向かう。
ミミは宦官を自分の胸で受け止める。宦官に手を回し、長い間抱きしめる。
宦官は至福の満足したうめき声を上げる。宦官はミミにひたと寄り添い、その全身に震えが走り抜ける。
このとき宦官の腹の傷と頭の銃痕から静かに血が流れ始める。
次第に宦官は意識を失い始める−ミミを抱き寄せていた腕は力なく垂れ、膝は崩れ落ちる。−
宦官の目はまだじっと−幸せそうに−ミミを見つめているが、ゆっくりと閉じられていく・・・
宦官の歪んでいた顔は微笑みを浮かべる。
宦官の欲望は消え去った。
少女はゆっくりと、勝ち誇ったように、微笑みながら宦官を床に横たえる−奇妙な、ひしゃげたような、異国風の音楽が鳴り響きながら−
宦官は息絶える。
（了）