作者シャルカディ・イムレについて
シャルカディ・イムレ(1921〜1961)はデブレツェンで薬屋の店員そして印刷工をして、その間法律を学んだ。1946年首都に転居、『自由な言葉』紙の社員となる。これに続いて村落ラジオ、映画会社、1953年にはバルマズウイヴァーロシュの小学校、ついで『文学新聞』そしてマダーチ劇場の文芸部に勤めた。彼の最初の著述は『選択と星』紙が掲載した。劇的短編作品で戦争の悲劇的結果を示した（「地獄への飛翔」、「逃亡」）皮肉な神話的寓話でファシスト思想を批判（「真実のための決闘」「サテュロスの皮」）。初期の歴史中編（「シェゲシュヴァールの百年」1980）は彼の死後日の目を見た。文学随筆と評論において時代にあった世界文学及びハンガリー文学の成果についての展望が形成された。
「解放」の年以降熱狂的な信仰をもって社会主義社会への変革に尽力した。農民生活の当時の変化についての情勢を伝えた。（「恋」、「共同組合の人々」）作家としての手法も変革され、整然とした客観的文章構成あるいはまさに寓話的な文章に、伝統的な現実描写とジャーナリストの苦悩が取って代わった。彼はお手本をモーリッツ・ジグモンドに求めた。彼の短編集は「バルタ・ミハーイの幸運」(1952)、「スズメのあぜ道」(1954)の題名で出版された。「ガール・ヤーノシュの道」(1950)、「シケシュの幽霊の出没」(1950)、「ロジ」(1951)等の長篇も農村の状況の変革を描いている。
50年代の中頃からハンガリー社会の50年代に生じた衝突をますます決然と
して明白に描き出した。深い人間洞察をもって昔風の農村の習慣と新たな生活方式の衝突に注意をうながした（「野性の鵞鳥たち」、「泉で」）昔の裕福な農夫のモラルが生き延びていることを長編「農場の猛獣」(1953)で示した。「取りやめになった出会い」(1953)という短編集で、ありのままのリアリズムで進歩から取り残された農民層の状況を描いた（「氷の下、葦の下で」）。似たような方法で指導と群集との間の不信について（「アンナは立腹する」）、時代の政治的ゆがみ（「恥」）、若者たちの輪で広まっている暴力的な性急さについて語った（「レール」）。その短編においては劇的な要素（取りやめになった出会い）、他方ではドクメンタリー作家の手法の役割が強まった。（「旅」）
ハンガリー社会の現実(訳注・56年のいわゆるハンガリー動乱をさすか？)
と同時にシャルカディ・イムレも強い危機を体験した。「様式は」と彼は書いた「崩壊しているらしい、そしてそしてそれを妨げる権利は私にはない」。作家としての存在は自分自身の中に葬られた、彼はこの戦いに意味を見出さなかったのである（「警鐘」）。文学生活を放棄し、1960〜1961年に工場労働者として働いた。次第に損得勘定に投げ捨てた創作の仕事への信仰を取り戻し、その信仰とともに思想上の社会主義者としての展望を取り戻した。中篇「嵐の中で」並びに「狂人と怪物」ですでに危機の克服の可能性を求めた。前者の長編は出口を探求し、これを恋に見出す、後者はあらゆる共同社会のノルマを否定する「怪物」を非難する。シャルカディの変化する芸術上の方向探しもこれらの作品で明確になった。大衆文学リアリズムの後キャリア開始時の分析に基づく手法、劇的構成を甦らせ、この二つをシンクロさせた。
取り戻したやる気、行動への意欲を60年代初めの他の短編が証明している（「狼の冒険」、「未来についての対話」）。中篇「臆病者」(1961)は彼の社会への関心が一新されたことを示しているが、批評家の立場も明らかになっている。物語の二人の登場人物は２種類の人間の行動を代表している。エーヴァはこの作家の「怪物たち」に属し、職場も仕事もなく彼女の可能性のみを味わっている。責任を、それとともに自由を担うこともなく、囲われ者となり臆病者のままである。彼女に対してサボー・ピシュタは行動と責任の人生のを代表している。シャルカディの言わんとすることはモラル上の問題である、すなわち内容豊かな人間生活より安っぽい快適さを重んじるものたちを批判しているのである。彼はこの言わんとすることを格段に圧縮して語っていて、詳細な筋書き、記述を避けている−この点に彼は60年代の中篇の構成方法を成立させている。
劇作家としての活動は実に価値あるものである。初期の（1943年に生まれた）戯曲「預言者」においてすでに後の大きな劇が準備されている。50年代舞台でも農民生活の変革問題を取り上げた（「農場からの道」1952、「九月」1955）。劇作家としてのキャリアの転回点を「町隣の家」という1958年に書かれた作品が暗示している。悲劇「柱上のシメオン」(1960)において彼は世界観の危機を表現している。画家である主人公は社会にも創作の仕事にも希望を失い、人生のがけっぷちに立つ。「人間は食べ物、飲み物、成功、権力を欲するように、蝶が焔に惹き付けられるごとく、悪に惹かれる」と彼は認め、彼自身悪い側に立つ。シャルカディは自身の作家としての危機の危険な結末をここで描いた、自信と自尊心を衰えさせるあのニヒリストの生活哲学を。彼は「失楽園」(1961)ではこれらの危険な結末をさけようとした。主人公は無思慮からある病人の死を引き起こした医師である、そして今や彼も自身から生を投げ出したがっている、すでにその行動を導いているのは常識ではなく、狂気である。それに対して年配の父親の聡明な創作的な生活は対極にある、そして最後にシャルカディもこの生活に票を投じている。彼は行動する人生を選んだ、だがその計画をすでに実現することはかなわなかった。彼の悲劇的な死は同世代全てへの警告の例となった。選集「逃亡」(1962)、戯曲集「町隣の家」(1969)、映画シナリオ集「回転木馬」(1981)等が出版され、選抜された作品集も出版されている。
（ポモガーチュ・ベーラ著「現代ハンガリー文学1945〜1981」より）